翻訳|network
異なった地域にある二つ以上の放送局が、番組搬送ラインを使って同一番組を同時放送すること、およびその組織をいう。日本の番組搬送ラインは、テレビの場合は通常NTT(日本電信電話)のマイクロ回線が使用され、回線が混み合って使えないときなどの補助手段として通信衛星が使われている。ラジオでは中波放送(AM放送)はNTTの放送用高規格線を使用し、FM放送は通信衛星を使用している。VTRや録音テープの送付によって行う同時放送および異時放送も、慣習上ネットワークとよぶ場合があるが、本来の意味ではネットワークではない。日本全国を網羅するNHK(日本放送協会)も形態的にはネットワークであるが、通常は民放(民間放送)テレビ・ラジオの在京各社をキー局とする提携組織(系列)についていう。民放のネットワークは、後述するように、幾重もの協力協定により構築された恒常的な組織であり、その全国的な広がりを生かし、報道・番組活動や営業活動面で、いわば運命共同体として機能し、局経営に大きな比重を占めている。アメリカにはABC、NBC、CBS、Foxなどのネットワークがあり、多くの加盟局に番組ソフトを供給している。
[伊豫田康弘]
日本では、まずテレビ・ネットワークが形成され、テレビがラジオに先んじた。ラジオに比べテレビは、単独では放送設備や番組制作に要する経費が大きいうえに、とくに地方局ではタレントその他の制作条件に恵まれず、広告費を大量投入するナショナルスポンサー(全国的な販売網をもち、全国的に広告放送を行う広告主)の獲得も容易でない、といった事情がその理由である。テレビ・ネットワーク形成の契機になったのは、即時性と継続性がとくに要求され、かつ多額の制作費を必要とするニュースのネットワーク協定締結である。1959年(昭和34)8月に東京放送を中心とする民放テレビ16局によってJNN(ジャパン・ニュース・ネットワーク)が結ばれたのが皮切りになった。民放テレビが、報道メディアとして先行する全国紙やNHKと対抗していくためには、全国各地の局が取材やニュース素材の搬送に協力し合う必要があったからである。また、広告メディアとしてスケール・メリット(規模の拡大による収益性の向上)を発揮するうえでも、ネットワークは有効であった。その後、民放テレビの大量開局により系列間競争が激化したのに伴い、66年4月日本テレビ系列のNNN(ニッポン・ニュース・ネットワーク)、同年10月フジテレビ系列のFNN(フジ・ニュース・ネットワーク)、70年1月テレビ朝日系列のANN(オールニッポン・ニュース・ネットワーク)が発足し、それぞれ提携関係を一段と強化・拡充させていった。さらに、83年4月にはテレビ東京が、テレビ大阪に次ぐ2局目の系列局であるテレビ愛知の開局を機にネットワーク化を進め、その後開局した岡山・高松(テレビせとうち)、札幌(テレビ北海道)、福岡(TXN九州。現TVQ九州放送)の各局を結び、1991年(平成3)4月にTXNネットワークを確立している。
現在、テレビ・ネットワークはこのニュース協定を根幹に、キー局と各地方局間の一般番組や営業ネットに関する個別業務協定、大型スペシャル番組の共同制作を目的とする個別番組協定など、幾重もの協力協定によって構築されている。これは、ネットワーク間の視聴率競争の激化に対応、系列局間の協力関係をより緊密化し、ネットワークの実効を得ようという事情によるものである。なお、関東・関西・中部3地区の広域圏にあるUHF局13社では、全国独立UHF放送協議会(1977年11月結成)を中心に、実質的なネットワークを組んでいる(2004)。
[伊豫田康弘]
一方、ラジオ・ネットワークでは、民放発足当初からテープ交換などによる番組交流はあったものの、長い間ネットワーク形成の動きはみられなかった。ローカル番組中心の番組編成や番組制作費が比較的安くすむことが、そのおもな理由である。民放FM局が開局するまで、一部の大都市地区(東京、大阪、名古屋、福岡、札幌)を除いて、ほとんどの地区が民放ラジオ1局の地区で競合局がなかったことも、一因である。しかし、テレビの台頭により深刻な経営不振に陥ったところから、挽回(ばんかい)策の一つとして1965年5月、東京放送をキー局とするJRN(ジャパン・ラジオ・ネットワーク)、文化放送とニッポン放送をキー局とするNRN(ナショナル・ラジオ・ネットワーク)が相次ぎ結成された。このラジオのネットワークは、東京の局が制作し、ネット回線を通じて供給する番組を、加盟局が自局で放送したい番組だけを随時受けて放送するシステムである。原則としてネットワーク番組は放送することを義務づけているテレビ・ネットワークとは性格を異にしている。ラジオ・ネットワーク結成により、キー局は番組販売収入が増え、地方局は低コストで良質番組が調達でき、その余力でローカル番組の充実が進められ、ラジオ復活の強力な牽引(けんいん)車となった。FM放送では、81年2月、FM東京を中核とするJFN(ジャパン・エフエム・ネットワーク)が組まれたが、84年7月、全国FM放送協議会に名称を変更した。93年(平成5)にはエフエムジャパン(J‐WAVE)を中心とするJFL(ジャパン・エフエム・リーグ)がスタートした。
放送法は第52条の3で、特定局からのみ番組の供給を受けることを内容とする協定の締結を禁止している。同条は、一般に「ネットワーク禁止条項」とよばれているが、実質的には、民法テレビ・ラジオに、地域性を確保するための精神規定と解されている。
[伊豫田康弘]
『今道潤三著『アメリカのテレビネットワーク』(1962・広放図書)』▽『松岡由綺雄編『現場からみた放送学』(1996・学文社)』▽『日本民間放送連盟編『放送ハンドブック』(1997・東洋経済新報社)』▽『伊豫田康弘他編『テレビ史ハンドブック』(1998・自由国民社)』▽『日本放送協会編『データブック世界の放送』(1999・日本放送出版協会)』▽『天野勝文他編『現代マスコミ論のポイント』(1999・学文社)』
テレビ・ラジオの放送網,とくに全国放送網をいう。この名は,ラジオの中継網やテレビのマイクロウェーブ回線が網の目のようになっていることに由来する。政治,経済,文化の機能が中央に集中する現代社会にあっては,全国的ニュースの一元的な取材・編集が必要とされ,また大型娯楽番組制作に巨額の費用を要することから,全国放送網形成(商業放送の場合には全国的広告媒体の形成も含めて)が要請される。この要請は,ラジオからテレビの時代に入ってとくに強まった。
ネットワークとは,NHKやイギリスのBBCのような全国的放送機関の放送網を指すこともあるが,本来はアメリカの放送界から生まれた言葉で,アメリカの放送網が,全国各地に別個に許可された放送局を結集して一つの放送網を形成しているところに,この言葉の本来の意義がある。ローカル放送局の基盤の上に全国放送網が成立している点は日本の民放局の場合も同じである。アメリカの商業ネットワークや日本の民放の場合には,同一番組を同一時間に同一スポンサーで放送することがネットワークの原則である(時間違いネット,スポンサー違いネットは例外である)。アメリカではネットワーク放送を実施するためCBS,NBC,ABCなどのネットワーク会社があり,一定数の放送局を所有・運営して,ネットワークの基幹とすることが認められている。日本の民放の場合にはネットワーク会社はなく,また中央局が地方局を所有することも許されていない。編成・営業上の実務は東京,大阪の有力局が分担し(キー局,準キー局と呼ばれる),各地放送局と業務協定などによってネット関係に入る。放送法上は〈特定の者からのみ放送番組の供給を受けること〉を基本的に禁止しているが(52条の3),実質的には多くの民放局が系列化されている。とくにテレビの場合,四大系列(JNN,NNN,FNN,ANN)が形成され(表),系列間の競争は厳しい。当初,JNN,NNNなどニュースネットワークとして形成された日本の民放ネットワークも,現在では,編成・営業機能を中核とするネットワークに発展している。全国基幹地区の民放4局地区では,系列化はほぼ完全に行われているが,全国を単独で完全にカバーする系列はなく,4局地区以外では,複合ネット(クロスネット)が行われ,また,番組単位のネットで全国をカバーする。このほか,テレビ東京などは基幹地区ネットを形成し,また独立局的性格の強い広域圏内の県域局は独自の連合を形成している。民放ラジオの場合には,二つのネットワークがあるが,ローカル番組の比重がテレビよりも高い。このようにネットワークは一面で全国配給網の性格をもつが,他面では各地放送局の独自性(ローカル編成権,ローカル番組の確保)の保証という性格をもつ。アメリカの連邦通信委員会(FCC)がつねにネットワークの集中力排除の政策に立ち,またドイツ第1テレビが各州放送協会の連合体の形をとるなど,放送制度に腐心しているのも,全国放送とローカル放送をいかに両立させるかに苦心しているかの証明である。また,ニューメディアの進出により,とくにアメリカではネットワークのあり方が,今後大きく変わろうとしている。
執筆者:岡村 黎明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
(隈元信一 朝日新聞記者 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 (株)ジェリコ・コンサルティングDBM用語辞典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ASCII.jpデジタル用語辞典ASCII.jpデジタル用語辞典について 情報
出典 (株)朝日新聞出版発行「パソコンで困ったときに開く本」パソコンで困ったときに開く本について 情報
…たとえば文化面では,アメリカの演劇史はニューヨークのブロードウェーの歴史といっても過言ではなく,ニューヨークは今日でも芸術活動の拠点である。また,テレビの三大ネットワーク(NBC,CBS,ABC)はすべてニューヨークに本社を置いている。印刷出版業においてもニューヨーク州は生産高で全米1位(1976)を占め,2位のイリノイ州の約2倍であり,ペンシルベニア州も第4位である。…
…NBC,ABCとともに,アメリカ三大放送ネットワーク会社の一つ。NBCについで古く,前身は1927年に設立された放送会社だが,今日のCBSとしての再発足は翌28年,以来CBSはコロンビア放送会社Columbia Broadcasting Systemの略称として親しまれたが,74年にその略称を正式の社名に改めた。…
…多数の放送局が,番組の交流,中継回線の接続などをとおして,有機的な連携のもとに運用される組織をいう。放送網(ネットワーク)には,国情,地域社会,経済的条件,資本系列,各放送局の番組制作能力,あるいは電波伝播特性を中心とした技術的条件,などによって決まるさまざまの形態がある。放送網を構成することにより,番組制作費ほか経費の削減,放送番組の向上などが図られる。…
※「ネットワーク」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新