地方自治体や大学などが図書館の蔵書の貸し出しを補完するサービスとして、電子書籍データを持つ民間企業の協力を得て運営している。利用者はインターネットでデータを受信し、貸与期間が過ぎれば自動的に読めなくなる。図書館のない離島や中山間地域の住民が気軽に書籍を借りられるようになる。ただ、高額なシステム導入費や維持費が図書館の書籍購入費を圧迫している問題や、電子書籍の普及により印刷・製本業者の経営に悪影響を及ぼすといった指摘もある。
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出典 共同通信社 共同通信ニュース用語解説共同通信ニュース用語解説について 情報
電子化情報を対象とし、これまでの図書館機能に加えて、ネットワーク社会に対応した機能をコンピュータやネットワーク上でいっそう発展させたシステム。デジタル図書館ともいう。世界的なネットワーク・レファレンスサービス(文献調査など)や、目録・リストの提供だけではない、内容そのものを含む全文サービスなどに特色がある。図書館では司書が介在し、図書や雑誌という紙メディアを扱ってきたが、電子図書館ではコンピュータ・ネットワークによる仮想情報世界でのマルチメディア利用が中心となる。これらは大量電子情報の蓄積と検索、およびネットワーク技術によって可能となる。このために場所としての環境や建築物としての形態を必須(ひっす)のものとはしない。しかし、こういった科学技術によって達成される電子図書館は、インターネットの普及と同じく機能自体が社会的な影響力を強くもつが、よい結果だけをもたらすわけではない。電子図書館は新しい技術利用のなかで、従来の図書館が人間の感性に働きかけてきた諸要素も考慮していかねばならない。それは司書のサービスや建物、「図書館」という雰囲気全体に代表される歴史・伝統的な社会機能、すなわち文化概念的な側面である。電子図書館はいまだ、成長期にある社会システムの一種といえる。
電子図書館の誕生は、コンピュータと図書館機械化とインターネットとの三者関係にみることができる。1945年にアメリカで電子計算機ENIAC(エニアック)electronic numerical integrator and calculatorが生まれ、その後第二次世界大戦の終了とともに、世界的な大量情報生産・消費時代が始まった。アメリカでは1960年代に入り議会図書館が、コンピュータで利用可能な機械可読目録システムMARC(マーク)を開発し図書館の機械化に貢献した。これをうけて日本でも、1970年代から国立国会図書館や大学図書館での本格的なコンピュータ利用が始まった。
同じころ、アメリカでは軍事目的を主としたコンピュータのネットワーク結合が本格化し、ついで1980年代中ごろから研究者のネットワーク利用も重要視されはじめた。ここに世界中のコンピュータを容易に結び付けるインターネットが生まれた。1990年代初頭にはクリントン政権の副大統領アルバート・ゴアAlbert Gore(1948― )による情報スーパーハイウェー構想が発表され、教育や産業へのインターネット利用を促進した。また同時期、米欧共同開発によるWWW(World Wide Web、世界通信網)サービスとその検索ソフトであるブラウザーMozaic(モザイク)が世界に普及し、インターネットの利用効率を高めた。
このような世界の情勢のなかで、1990年を境にして、同時代的にアメリカ、ヨーロッパ、アジア、日本などで、インターネット利用のうち研究・教育的側面を集約した電子図書館の実験が始まり、95年にはベルギーのブリュッセルで開催された「情報社会に関する関係閣僚会合」(先進7か国および欧州委員会が参加)の議案にもなった。
電子図書館はネットワーク上の文章や画像をはじめとする多様なメディアを相互に関連づけて扱うハイパーメディアを対象とするので、図書や雑誌という紙メディアにあった制約が少なくなる。利用時間や場所の制限がなくなり、音楽や動画を含めた情報を自由に閲覧できるようになる。また論文や小説などの文章全体(全文)に対して、人工知能研究・自然言語処理などの成果が盛り込まれるので、内容そのものに関する知識情報提供など、これまで人手では限界があった多くのサービスが生まれ向上する。一般インターネット世界との違いは、電子図書館が恒常的に中立的な立場にたって必要な情報を取捨選択し、分析し、蓄積し、利用者の目的や要求にかなった高度な援助を行うところにある。
国内では1990年代後半からいくつかの実験と運用とがなされている。国立国会図書館は、電子図書館機能をもった関西館(第二国会図書館)の建設を1998年(平成10)より始め、2002年に開館した。国立情報学研究所では、学会論文誌のイメージ配布を中心とした電子図書館サービスを開始している。大学では筑波大学、京都大学、奈良先端科学技術大学院大学が早くに開始した。京都大学附属図書館の電子図書館サービスでは国宝『今昔物語』を見ることができる。各地の大規模公共図書館では、文部科学省主催による地域電子図書館構想が準備段階に入り、21世紀初頭には普及するであろう。
国外では1990年代前半からアメリカを中心とした電子図書館の実験および運用がみられる。まず利用者指向のものとして、議会図書館では、アメリカンメモリーという、アメリカの歴史資料を扱ったサービスがある。ニューヨーク公共図書館では、分館間で早期にインターネットを使った実質的なネットワーク共同利用が完備し、これを電子図書館と名づけてもよい。大学ではスタンフォード大学図書館が旧来の図書館機械化の資産を使って早くに電子図書館を運用している。技術指向的な国家的プロジェクトとしては、電子図書館技術の研究開発を目的として、電子図書館推進プロジェクトが発足し、1994年から98年まで5大学6キャンパスに資金助成があった。これは1999年から第二次計画に継承されている。ヨーロッパでは、イギリスやフランス、ドイツなどで国立中央図書館を中心に研究開発がされており、いずれも21世紀には明確な形をみせるであろう。
そのほか内外を問わずにインターネット技術を応用した小さな個人電子図書館が萌芽(ほうが)をみせており、これまでの図書館概念とは異なった世界の発展も予測される。
電子図書館は今後もコンピュータやネットワーク技術、とりわけ自然言語処理やパターン認識を中心とした情報科学全般の発展によって成長が約束されている。しかし、電子的仮想情報と現実情報との、両者の協調と乖離(かいり)・断絶など、人間存在の本質に根ざした問題は未解決に近い。これらは科学技術だけではない、文化概念的側面からの多様なアプローチを必要とする。また著作権保護と利用料金に関しては出版世界を含む社会的な問題として取り扱っていかねばならない。従来の図書館が原則無料である事実と、電子図書館の課金制度などは、今後も継続して検討し、一律的に急な結論を出してはならない。さらに、これまでの図書館類縁機関(博物館や文書館)との協調、およびそれらを仲介する電子司書・学芸員の役割と責任とは従来にもまして重要視する必要がある。
[谷口敏夫]
『M・K・バックランド著、高山正也・桂啓壮訳『図書館サービスの再構築――電子メディア時代へ向けての提言』(1994・勁草書房)』▽『長尾真著『電子図書館』(1994・岩波書店)』▽『W・F・バーゾール著、根本彰他訳『電子図書館の神話』(1996・勁草書房)』▽『石川徹也著『電子図書館が意味するもの――読者・著者・アーティスト・編集者・出版社・取次・書店、そして印刷関連業界に何が起こるか』(1996・マルチメディア出版研究会、出版研究センター発売)』▽『谷口敏夫著『電子図書館の諸相』(1998・白地社)』▽『宮井均・市山俊治著『電子図書館が見えてきた』(1999・NECクリエイティブ)』▽『合庭惇著『デジタル知識社会の構図――電子出版・電子図書館・情報社会』(1999・産業図書)』▽『原田勝他編『電子図書館』(1999・勁草書房)』▽『京都大学電子図書館国際会議編集委員会編『2000年京都電子図書館国際会議――研究と実際』(2001・日本図書館協会)』▽『日本図書館情報学会研究委員会編『電子図書館――デジタル情報の流通と図書館の未来』(2001・勉誠出版)』
[定義と機能]
電子図書館とは,1996年に学術審議会が定義した「電子的情報資料を収集・作成・整理・保存し,ネットワークを介して提供するとともに,外部の情報資源へのアクセスを可能とする機能をもつもの」に集約できる。また,国立国会図書館は自らの電子図書館事業において,「電子情報と情報環境を活用して図書館がおこなうサービス」と定義している。その特徴として,①ネットワークによる情報の提供,②資料にアクセスさせるための書誌情報,電子化した資料そのものなど,さまざまな電子図書館の「蔵書」(コンテンツ)の構築と提供,③テキストだけではない音声や動画などマルチメディアの活用,④情報通信技術を活用した検索・閲覧などの利便性の向上,⑤インターネット上の情報など外部情報資源の活用と探索への援助の5点をあげている(国立国会図書館「電子図書館事業の概要」)。
電子図書館で提供される情報・資料は多岐にわたるが,コンテンツの具体例には,図書館が所蔵している冊子体資料をスキャナー等の利用により画像データ化したり,テキストファイルに抽出して電子化した資料である「電子化資料」や,最初から電子ファイルとして出版・流通させる「ボーンデジタル」がある。
また検索・閲覧の利便性の向上には,利用者からの問合せに応じるレファレンス・サービスや,所蔵資料の予約や複写,購入,他館からの借用などのリクエスト・サービスをインターネット経由で対応することなどがその例である。さらに利用者が調べたいテーマについて,関連する文献や情報の探索法をまとめたパスファインダー(pathfinder)も,従来はリーフレット状にまとめられていたが,電子図書館機能のもとではウェブ上で,情報源の探索技法を学習しつつ,登録された情報源に到達できるため,容易に提供可能なサービスとなった。
[歴史]
このように情報通信技術の進展に伴い,図書館サービスは大きく変化してきたが,その変化を促した一人が,マサチューセッツ工科大学の電気工学者ヴァネヴァー・ブッシュ,V.Vannevar Bush(1890-1974)である。原爆開発計画であるマンハッタン計画にも参加した彼は,1945年に人間の知的活動を助ける未来に出現する装置memex(memory extender)のアイデアを発表した。memexは個人用の情報ファイルであり,図書館の機能を持つものであったことから,ブッシュは「電子図書館の父」と呼ばれている。その後1971年に,アメリカ合衆国の「プロジェクト・グーテンベルク」が,著作権の切れた作品を電子化してネットワークに公開するとともに,国家的事業としてアメリカ議会図書館がアメリカの歴史に関する文書,画像や音声を「アメリカンメモリー」として収集して公開するようになった。
日本における電子図書館の試みは,1994年に長尾真(当時,京都大学教授)を中心に設立された電子図書館研究会が,BBCC(新世代通信網実験協議会)等と協力して電子図書館のプロトタイプであるアリアドネを開始した。京都大学電子図書館ではこの成果をもとにして,貴重資料の電子化や学内刊行物の電子化が行われている。また,奈良先端科学技術大学院大学附属図書館が1996年から運用を開始した曼荼羅図書館が,実用化という点で日本初の電子図書館サービスともいわれている。なお国立国会図書館は,近代デジタルライブラリーとして,明治以降に刊行された図書や雑誌のうち,インターネットで閲覧可能な資料をデジタル化して公開するとともに,インターネット資料の保存にも取り組んでいる。
[電子図書館と機関リポジトリ]
このように,電子図書館は国立国会図書館や大学図書館を中心に発展したが,図書館におけるデジタル化は,①所蔵資料の書誌情報のデジタル化,②CD-ROM等のパッケージ系電子資料の収集と提供,③所蔵資料のデジタル化およびインターネットを通じた提供,そして④電子ジャーナルや電子書籍の収集と提供という段階を経てきている。
なお現在,大学図書館の電子図書館化事業は,機関リポジトリへと展開している。機関リポジトリとは,大学および研究機関で生産された電子的な知的生産物を捕捉し,保存し,原則的に無償で発信するためのインターネット上の保存書庫を意味し,多くが無料でアクセスを可能にしている。ちなみに日本では,「学位規則の一部を改正する省令」(平成25年文部科学省令第5号)に基づき,2013年4月より,博士論文のインターネット公表が義務付けられることとなった。なお,国立国会図書館と大学図書館との連絡会「学位論文電子化の諸問題に関するワーキング・グループ」による「学位規則改正に対する留意事項及び解説」では,各大学等の機関リポジトリにおける公表が原則とされている。
今後の大学図書館サービスは,情報通信技術のさらなる進展とともに,図書館資料の「所蔵」から,資料への「アクセス」がますます重視されるようになるだろう。電子図書館機能の充実が,あらたな大学図書館サービスの誕生を招くことになるのは間違いないであろう。
著者: 溝上智恵子
参考文献: 国立国会図書館「電子図書館事業の概要」:http://www. ndl. go. jp/jp/aboutus/dlib/project/
参考文献: ウィリアム・F. バーゾール著,根本彰ほか訳『電子図書館の神話』勁草書房,1996.
参考文献: 長尾真『電子図書館(新装版)』岩波書店,2010.
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(南 文枝 ライター/2015年)
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