埋伏歯(読み)まいふくし(その他表記)Impacted tooth

六訂版 家庭医学大全科 「埋伏歯」の解説

埋伏歯
まいふくし
Impacted tooth
(歯と歯肉の病気)

どんな病気か

 歯が生えてくる時期が過ぎても、歯(歯冠(しかん))の全部または一部が、歯ぐきの下またはあごの骨のなかに埋まって出てこない状態の歯のことをいいます。1歯または数歯が埋伏しているものから、多数歯が同時に埋伏しているものまでさまざまな場合があります(図26)。

原因は何か

 多くの埋伏歯は、乳歯が早期に脱落したり歯が抜けずに残ったり、あごの骨の不十分な発育などにより、永久歯の生えてくる場所が不足することで生じます。また、歯が骨と癒着してしまったり、歯を取り囲む周囲の骨や歯ぐきの肥厚、歯そのものの形や大きさの異常など、正常な萌出を妨げる要因があると、埋伏歯が生じる場合もあります。

 多数の埋伏歯が認められる場合には、遺伝的要素、先天異常、内分泌系疾患、栄養障害などの原因が疑われることもあります。

症状の現れ方

 乳歯では乳臼歯(にゅうきゅうし)が埋伏する場合がありますが、乳歯が埋伏することは極めて少なく、多くの場合は永久歯に認められます。永久歯では上下親知らず智歯(ちし)・第三大臼歯)、上あごの前歯および犬歯小臼歯の順で多く、不正咬合の原因になることも少なくありません。

 一般に、埋伏歯は位置や方向の異常を伴うことが多いため、埋伏している歯が周囲の歯の根を吸収し、動揺を引き起こすなど、さまざまな障害を引き起こす場合があります。また、歯冠の一部が埋伏している場合は、歯肉と歯の間で細菌感染が生じやすく、埋伏歯周囲の歯ぐきやあごの骨に炎症を引き起こす場合もあります。

治療の方法

 埋伏歯の治療としては、噛み合わせや周囲の歯に悪影響を及ぼすおそれがある場合には主に抜歯が選択されますが、骨の深い位置に埋伏している場合は経過観察を続ける場合もあります。また外科的に埋伏歯の歯冠の一部を露出させ、矯正(きょうせい)装置を用いて口腔内に牽引(けんいん)誘導し、正しい位置に生やす治療を行うこともあります(図27)。

森山 啓司


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「埋伏歯」の意味・わかりやすい解説

埋伏歯
まいふくし

歯の萌出(ほうしゅつ)異常の一形態で、歯が萌出すべき標準の時期を過ぎても、口腔(こうくう)に完全に萌出しない状態をいう。永久歯では下顎智歯(かがくちし)(親知らず)および上顎犬歯にもっとも多く、過剰歯にもみられる。乳歯では永久歯よりはまれであるが、比較的乳臼歯(きゅうし)に多い。継発症のない場合は放置しておいてもよいが、三叉(さんさ)神経痛、濾胞(ろほう)性歯嚢(しのう)胞(埋伏歯の歯冠の周囲にできる嚢胞)、埋伏歯周囲組織の炎症、褥瘡(じょくそう)性潰瘍(かいよう)(皮膚や粘膜の特定の部分に、長期間物理的な力が作用してできる潰瘍)、歯列異常等の継発症のある場合は抜歯を行う。

[矢﨑正之]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「埋伏歯」の意味・わかりやすい解説

埋伏歯
まいふくし
impacted tooth

一定の萌出期が過ぎても歯冠が正常に生えないで,顎骨内あるいは口腔粘膜下に隠れている歯をいう。歯冠の一部が萌出して残りの部分が隠れている場合を半埋伏,歯冠がまったく萌出していない場合を完全埋伏という。しばしばみられるのは下顎智歯と上顎犬歯であるが,上顎中切歯,側切歯,下顎第2小臼歯などにもみられる。また,過剰歯の埋伏もある。乳歯では乳臼歯,乳犬歯にみられるが,永久歯よりまれである。埋伏歯は転位していることが多く,はなはだしい場合は,正常とまったく逆方向を向いていることもある。埋伏歯は隣在歯の歯根を圧迫,吸収したり,神経を圧迫して,疼痛や知覚異常を起す。半埋伏の場合には,歯肉との間に深いポケットがあるので感染しやすく,歯肉炎,歯冠周囲炎の原因となる。佝僂病 (くるびょう) ,クレチン病,蒙古症,外胚葉異形成症などの全身性疾患で,乳歯や永久歯のほとんどが埋伏していることが,まれにある。

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