智歯周囲炎(読み)ちししゅういえん(英語表記)Pericoronitis of Wisdom Tooth

六訂版 家庭医学大全科 「智歯周囲炎」の解説

智歯周囲炎
ちししゅういえん
Pericoronitis of wisdom tooth
(口・あごの病気)

どんな病気か

 智歯とは、いわゆる親知らずのことです。この親知らずの周囲が、細菌感染によって炎症を起こす病気です。

 歯が完全に萌えなかったり、歯の萌える位置や方向が悪く、斜めに萌えて完全に萌出(ほうしゅつ)してこないために、食べかすが隣りの歯との間や親知らずの周囲の歯ぐきに入り、不潔になることにより起こります。

症状の現れ方

 歯ぐきの周囲が発赤してはれ、押さえると痛みがあります。次第に、歯ぐきからうみが出てくるようになり、口が開きにくくなり、つばを飲み込むとのどの入口が痛みます。

 さらに進むと、口がほとんど開かず、あごの下や頬がはれてくるようになります。この時点で適切な処置をしないと、骨膜炎(こつまくえん)蜂窩織炎(ほうかしきえん)を継発するので油断禁物です。

検査と診断

 歯ぐきの状態をチェックします。X線写真により歯の萌える方向を調べます。検温、血液検査などで炎症の程度を調べます。

治療の方法

 歯ぐきのまわりを洗浄し、清潔にします。抗菌薬投与し、はれ、痛みに対して抗炎症薬を投与します。うみがたまれば切開します。症状がなくなったあとに原因となる歯を抜歯します。

病気に気づいたらどうする

 はれて痛みがあるなら歯科医院へ行きましょう。口が開かないようであれば、口腔外科のある総合病院大学病院の歯科口腔外科を受診します。口が開かない状態にまで進めば安静や集中的な治療が必要になります。

福田 仁一

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「智歯周囲炎」の解説

ちししゅういえん【智歯周囲炎 Pericoronitis of Wisdom Tooth】

[どんな病気か]
 智歯(ちし)(親しらず)の歯周ポケットにおこる炎症です。他の歯とちがい、隣の歯との間に深いポケットがあるため、炎症をくり返し、いろいろな症状をおこします。
[原因]
 智歯は上下左右で4本ありますが、全部出ている人から、まったく出ない人までいます。
 智歯はいちばん奥にあるため、萌出(ほうしゅつ)スペースが不足し、傾斜したりして隣の歯にぶつかります。また、完全に萌出できずに、歯の一部分だけ顔を出し、隣の歯との間に三角形のポケットができます。このポケットに汚れがたまり、感染して腫(は)れや痛みをおこします。とくに下顎智歯(かがくちし)に多くおこります。
[症状]
 智歯の歯冠周囲粘膜(しかんしゅういねんまく)が赤く腫れ、痛みと膿(うみ)が出てきます。激しい痛みや腫れで口が開かなくなり、のども痛く、物を飲み込めなくなります。さらに発熱食欲不振、全身倦怠感(ぜんしんけんたいかん)などの症状が続きます。炎症をくり返す間に、体調の悪いときに重なると重症になります。炎症の範囲はのどの奥から顎下部(がくかぶ)、さらに頸部(けいぶ)から胸部にまで広がり、死につながることがあるので注意が必要です。
[治療]
 軽い場合は、ポケットからの自然排膿(はいのう)とともに症状は消えますが、智歯が萌出しないかぎり必ず再発します。周囲に炎症が広がって蜂巣織炎(ほうそうしきえん)となり、頸部が腫脹(しゅちょう)すると、呼吸困難で気管切開が必要になります。
 このように、広く深い範囲に炎症が拡大すると、抗生剤だけの使用では治りません。また口の中からの切開排膿ではむりで、顔面頸部の皮膚を切開して膿を出す道をつくります。これらの処置が遅れると、さらに炎症は拡大し、全身症状が悪化して敗血症などをおこし、死亡するケースがあります。
 智歯は、完全に埋伏(まいふく)していても、一部分露出していても、いずれにしろ将来問題をおこす可能性が非常に高いので、完全に萌出していて咬合(こうごう)している場合を除き、症状がなくても、予防的に抜歯(ばっし)をしたほうがよいでしょう。

出典 小学館家庭医学館について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「智歯周囲炎」の意味・わかりやすい解説

智歯周囲炎
ちししゅういえん

智歯(第三大臼歯(きゅうし)。俗にいう親知らず)の周囲組織にみられる急性または慢性の炎症をいい、埋伏状態にある下顎(かがく)智歯に多く認められる。智歯は歯列のなかでは最後に萌出(ほうしゅつ)するもので、不完全萌出や位置異常をおこしやすい。智歯と周囲の軟組織との間に盲嚢(もうのう)(病的な歯肉嚢)ができ、食片の停留や細菌の繁殖をきたすと、智歯周囲炎となる。智歯周囲炎では、歯冠を覆う弁状の軟組織や歯肉に発赤、腫脹(しゅちょう)、疼痛(とうつう)がみられ、炎症がさらに周囲に広がると嚥下(えんげ)痛や開口障害が現れる。また、顎下リンパ節の腫脹、圧痛のほか、発熱、睡眠障害などの全身的影響の現れることもある。初期には局所の洗浄と抗生剤、抗炎症剤などの投与を行うが、膿瘍(のうよう)が形成されれば切開排膿の処置をとる。急性症状がなくなったのち、抜歯を行う。

[矢﨑正之]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「智歯周囲炎」の意味・わかりやすい解説

智歯周囲炎
ちししゅういえん
pericoronitis of the wisdom tooth

智歯の歯周組織の炎症で,下顎智歯に起ることが多い。急性と慢性がある。萌出障害や萌出途上の智歯では,歯冠の一部が歯肉上に姿を現し,他は歯肉下にあるので,歯冠と歯肉の間に深く大きいポケットができる。そこに食物片が残留し,細菌が増殖しやすく,さらに,噛み合せるときに歯肉が傷つきやすいので,炎症が起る。歯肉が赤くはれて,疼痛があり,開口障害,顎下リンパ節の腫脹,発熱,全身倦怠などを起すことが多い。広がると,扁桃周囲炎,顎炎,下顎周囲炎,口底炎などを併発する。治療には,化学療法と局所の清掃,消毒を行うが,原因が萌出障害の場合は急性期を過ぎたら抜歯し,萌出途上の場合は歯肉の切開,切除を行う。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の智歯周囲炎の言及

【親知らず】より

…これは一種の退化現象とみなされている。
[智歯周囲炎]
 歯冠周囲炎ともいう。第3大臼歯の周囲の歯肉に生じた炎症。…

※「智歯周囲炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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