日本大百科全書(ニッポニカ) 「増幅回路」の意味・わかりやすい解説
増幅回路
ぞうふくかいろ
amplifier circuit
入力信号の電圧、電流、電力を拡大した出力信号を出すための電子回路。真空管とかトランジスタなどの能動デバイス(電気信号に外部からエネルギーを付与できる装置)を利用し、電気信号に直流電源などからエネルギーを付与する。この際、出力電圧と入力電圧の比を電圧増幅率、出力電流と入力電流の比を電流増幅率、出力電力と入力電力の比を電力増幅率とよぶ。電圧増幅率と電流増幅率はそれぞれ出力と入力の比の常用対数の20倍をとり、デシベル単位で表すが、電力増幅率は比の常用対数の10倍をデシベル単位で表している。
[岩田倫典]
バイアス点による出力波形
増幅回路は能動デバイスのバイアス点に応じて出力信号の波形が入力信号のそれと異なるものであるが、それぞれA級、AB級、B級、C級増幅回路とよび特徴のある使い方をしている。能動デバイスは、入力と出力信号の関係が零(増幅されない)領域と、直線的な領域と、飽和する領域に区別される。A級増幅回路は直線領域の中央にバイアス点を置き、入出力関係が比例するので出力ひずみは少ない。A級増幅回路で得られる最大の出力は直流電源から供給される電力の半分以下である。B級増幅回路は直線領域と零領域の接点にバイアス点を置くので、半波分だけが増幅される形となる。B級増幅回路はプッシュプル接続して信号の半波分ずつを増幅することにより、波形のひずみの少ない、電力効率が最高78%の高効率の増幅が得られる。C級増幅回路はバイアス点が零領域にあるため波形のひずみは大きいが、入力信号を大きくとると出力にきれいな方形波も得られる。これらの回路と、コンデンサー、インダクタンス、抵抗の組合せにより、目的の周波数帯域を増幅する回路が構成される。
[岩田倫典]
広帯域増幅回路
広い周波数帯域で均一な増幅率を得るためのもので、高忠実な音声増幅の最終段に用いられている。A級シングル回路、A級プッシュプル回路、B級プッシュプル回路が用いられ、プッシュプルにはトランジスタでは相補回路が普通用いられる。周波数帯域を広げるためにはインダクタンス、コンデンサーの共振特性を利用するピーキング回路、利得を犠牲にした負帰還回路が用いられる。トランジスタでは接地方法により出力インピーダンスを低くとれることからOTL(出力トランスなし)回路が構成できる。また、ベース接地の広帯域性を生かしエミッタ接地を入力側に直結したカスコード回路もある。電話線の場合のように双方向へ増幅するには、負性抵抗素子を用いた双方向増幅回路が用いられる。
[岩田倫典]
狭帯域増幅回路
インダクタンスとキャパシタンスを並列に接続した同調回路を用いる。これには放送波を選局する単同調増幅回路、中間周波増幅などに用いる複同調増幅回路、帯域を広げるために単同調回路の共振周波数を少しずつずらせて多段に接続したスタガ増幅回路がある。同調増幅器では出力正弦波電流が多少ひずんでいても出力電圧はほとんど完全な正弦波になることを利用して、大振幅の正弦波や変調波を発生させるためにC級増幅回路が用いられる。波形が問題にされないパルス信号にもC級増幅器が用いられる。
[岩田倫典]
直流増幅回路
直流を含む低周波の増幅用回路である。コンデンサーの影響を避けるために能動デバイスを直接接続する直結型が用いられ、出力に接地が不要なものに平衡型の差動増幅回路がある。また入力信号を交流に変形して交流増幅器で増幅する変調型直流増幅回路も利用されている。
[岩田倫典]
『西野治編『実験物理学講座7 エレクトロニクス』(1978・共立出版)』▽『山本外史著『電子回路Ⅰ・Ⅱ』(1980・朝倉書店)』