翻訳|amplifier
入力信号によって制御し、別に用意されたエネルギー源から、入力信号と伝達要素について相似で、より大きい出力の信号を取り出す装置をいう。電気式のものは略してアンプという。増幅器は真空管の発明により実現したものであるが、いまや大型のものを除き、ほとんどトランジスタ、FET(電界効果トランジスタ)、およびIC(集積回路)を能動素子とする増幅器が普及している。また、機械的なエネルギーを、油圧を使って増力する油圧サーボ系も増幅器の一種である。
[石島 巖]
電気的な増幅器ではエネルギー源は直流電源であり、電池や、交流電源から整流して得られる直流を用いる。油圧装置のエネルギー源は高圧を与えた油のタンクである。いずれの場合も増幅作用は、入力信号のエネルギーを、別に用意されたエネルギー源から刻々必要な分だけ取り出す制御に使用して、大きなエネルギーとして取り出すことによって達せられている。たとえば、貯水池に蓄えられている大きな水のエネルギーを、水門を上げ下げすることによって制御するようなものであると考えることができる。水門を上下するエネルギーはそれほど大きくはないが、それを行うことによって、ずっと大きい水流の力を制御することができるから、考え方によっては増幅器ということができよう。
真空管の電圧増幅器は、十分に電力を取り出しうる直流電源からの直流電圧を陽極と陰極の間に加えておき、同時に制御格子を陰極に対して負に保つように適当な負の電圧(バイアス電圧)をかけ、陽極と陰極間には大きな電流が流れない状態にしておく。このとき、格子、陰極間に増幅すべき信号電圧を加えると、陽極、陰極間のコンダクタンス(電流の流れやすさ)が変化して、電流が入力信号の電圧に応じた強さで変化する。陽極電圧は負荷抵抗を通して供給しているから、電流の増減によって電圧降下量が増減する。この電圧変化量が制御格子に加えた電圧変化量より大きくなるように真空管の性能、負荷抵抗、陽極電圧、バイアス電圧などを整えておけば、能率のよい増幅器ができる。電力増幅器も原理的には同様であるが、入力の電力と出力の電力の比率をできるだけ大きくするように負荷インピーダンス(交流に対する抵抗値)を低くとり、陽極電流を多く流せるように大型の真空管を使用し、電源の容量も大きくすることが必要である。トランジスタやICを使用する増幅器も原理的には同じであるが、真空管に比べて供給電圧が低いため、同程度の出力を得るためには電流を多く流す必要があり、入出力インピーダンスの低い回路構成となる。
[石島 巖]
増幅素子のバイアス点によりA級、AB級、B級、C級という種類がある。小さな信号の電圧比を大きくしたい場合には、バイアス点の浅いA級増幅器が適しており、ある程度大きな電力の信号をさらに大きくしたい場合にはB級増幅器をプッシュプル(増幅素子を対称に2個使用しておのおの正負の極性を専門に受け持ち、半サイクルずつ増幅したあとで合成する増幅法)接続として使用する。無線電信(搬送波の低速度の断続)の電力増幅や周波数逓倍(ていばい)増幅はほとんどC級増幅器である。C級増幅は、増幅によって生じるひずみの増加が大きな問題とならず、増幅器の能率がとくに重要な大型の送信装置の増幅器として最適である。増幅の能率はC級、B級、A級の順によいが、用途に応じて使い分けがされている。テレビジョンや多重通信などの電波は占有周波数帯幅がきわめて広いため、そのスペクトラムの広がり全体にわたって利得(入出力の比)が一定であることが必要であり、これを広帯域増幅器とよんでいる。一方、短波受信機の中間周波増幅器のように通過帯域幅を狭くすることに注意を払った狭帯域増幅器も受信感度の向上、ならびに混信や雑音を除去するために重要である。
マイクロ波以上の周波数領域では、普通の真空管やトランジスタで増幅することは困難で、速度変調管(クライストロン)や進行波管(TW管)が用いられる。宇宙通信に使われる受信設備の前置増幅には、内部で発生する雑音がきわめて微小なパラメトリック増幅器が使用され、さらに雑音を減らす必要があるときは、液体窒素などで増幅素子を零下200℃程度まで冷却したパラメトリック増幅器を使用するのが常識的であった。しかし、GaAsショットキーバリアFET(ガリウム・ヒ素・電界効果トランジスタ)には雑音指数や高周波特性の優れたものが現れ、20ギガヘルツまでの実用が可能となりパラメトリック増幅器の性能に迫っている。
[石島 巖]
電気信号の電圧,電流などを大きくするための装置。アンプともいう。放送局から送られる電波は,ラジオでもテレビジョンでも,家庭のアンテナで受信したとき,きわめて微弱なものである。これをスピーカーやブラウン管からの音声や映像として楽しむためには増幅作用が必要である。デ・フォレストはプレートとフィラメントの間にグリッドを入れた三極真空管を発明し,アメリカのゼネラル・エレクトリックの研究所でグリッドを負電位,プレートを正電位にすると,わずかなグリッド電位の変化でプレート電位を大きく変化できることが見いだした。これが増幅作用の発見で,以後の通信,エレクトロニクスの発展の鍵となった。
現在知られている増幅の原理には,真空管,バイポーラトランジスター,電界効果トランジスターなどの弁作用,エサキダイオードなどの負性抵抗作用,バラクターダイオードなどのパラメトリック増幅作用の三つがある。増幅器の大部分は弁作用によるもので,バイポーラトランジスターやその他の回路部品を数mm角のシリコンの小片に形成した集積回路が主流となっている。
図1の回路でプレート電流Ipが10mA流れていると,抵抗Rpで100Vの電圧降下があるから,プレート電位Vpは150Vになる。グリッドの電位を-2Vにするとプレート電流は15mAに増加し,Vpは100Vに下がる。すなわち,グリッド電位の1Vの変化でプレート電位を50V変化できることになり,50倍の電圧利得が得られる。真空管は形状,電力消費が大きく,寿命も短い欠点のため,現在では大電力送信機など限られた範囲でしか使われていない。
バイポーラトランジスターは0.5mm角から1cm角のシリコン基板にnpnまたはpnpとサンドイッチ構造を作ったもので,電力用では数百Wまでの出力が得られ,高周波用では数GHzのマイクロ波帯まで増幅作用をもっている。電力効率がよく,長寿命でエレクトロニクスのあらゆる分野に用いられている。図2にトランジスターを用いた増幅器の回路例を示す。
数mm角のシリコン基板に数百~数千個のトランジスターや抵抗を形成し,表面に数十μm幅のアルミ配線をつけて回路を完成したのが集積回路である。汎用(はんよう)増幅器としては10万倍以上の電圧利得をもつIC演算増幅器が広く用いられている。最近のテレビ受像機やビデオテープレコーダーなどの高度な電子機器も大電力を扱うところを除いて,数個の集積回路にまとめられ,機器の小型化,高信頼化に寄与している。
現在のエレクトロニクスは,音声,映像などのアナログ信号をそのまま増幅するだけでなく,信号を数値化してディジタル信号とし,コンピューターと同じ手法で処理する方向へ進んでいる。これによって,従来不可能であった高忠実度の伝送や,信号の一時記憶などができるようになった。このようなディジタル回路の論理演算,記憶などの機能にも,処理の中間で信号のレベルを回復するための増幅作用が不可欠で,バイポーラトランジスターやMOSトランジスターが中心的な構成素子となっている。増幅作用の発見はすべての産業に浸透して,その頭脳の役割を果たしているエレクトロニクスの最大の基盤であったといえよう。
執筆者:柳沢 健
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