改訂新版 世界大百科事典 「多心皮類」の意味・わかりやすい解説
多心皮類 (たしんぴるい)
Polycarpicae
被子植物,双子葉植物の中で多数の心皮を有する植物の一群を指していう。通常,木本性のモクレンの仲間と草本性のキンポウゲの仲間がこの群に入れられるが,コショウの類やウマノスズクサの類までも,この群の仲間とすることも多い。この群に属する植物の中には心皮を一つしかもたないものもあるが,多くの類似点をもつことから自然群としてまとめられている。この仲間の特徴は一般的に花被やおしべ,心皮の数が多く,発達した花床をもち,比較的大きな花を咲かせる虫媒花であるということがあげられる。また,この仲間には仮道管のみで道管をもたない材,葉を折りたたんだような完全に閉じない心皮,単溝性の花粉,遊離核分裂をともなう胚発生など裸子植物に多くみられる特徴をもつ植物もあり,これらのことから多心皮類が被子植物の中で最も原始的であると考えるキンポウゲ植物説ranalian theoryが提唱されていて,現在のところ広く支持されている。この説はモクレンのように花軸が長く伸び,葉から由来したと考えられる大きな花被片および雌雄両性の器官を多数らせん状に配列させた虫媒花をもつ植物が花を咲かせる被子植物の中で最も原始的であると考えるものであり,このような構造の花が茎とそれにらせん状につく栄養葉と胞子葉から発達したとしている。この説によると,草本性の多心皮類から単子葉植物の多心皮類ともいえるオモダカの仲間が出てきたということになる。これに対する説は,単花被類,すなわち尾状花序を形成する花被のあまり発達しない単純な花の構造をもつ植物(尾状花序群)が原始的であるという説である。しかし,ほかにも被子植物が多系的な群であるという立場をとる説が提唱されており,現在のところ,被子植物の起源に関する定説はない。
執筆者:伊藤 元己
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報