昆虫の媒介によって花粉が移動し受粉が行われる花。ふつう,よく目だつきれいな花被をもち,蜜腺が発達し,強いにおいをもつなどの性質がみられる。風媒花より進化したものといわれるが,虫媒がいつごろ始まったかは明らかにされていない。花の構造だけから類推すると,被子植物が進化してきたのとほとんど同時に虫媒も行われるようになったのであろう。
虫媒花の花粉には粘液や突起などが目だち,昆虫のからだに着きやすく,また花粉塊をつくりやすくなっている場合が多い。また,花の各部分の構造が訪花昆虫の形態と関連のある場合が多く,両者の関係が指摘されることがあるが,形態学的な変形が実証的に示されたことはまだない。
花と昆虫の関係については古くからいろいろの観察があり,両者が互いに関係し合いながら進化してきたとみなされる例も多い(共進化co-evolution)。イヌビワとイヌビワコバチの例などはその典型で,いつごろからか,この両者は離れられない関係になっており,単に虫媒花と訪花昆虫という以上に,両者が依存し合って生活している。これほどではないにしても,虫媒花と訪花昆虫に密接な関係ができてしまっていることが多く,ランの花の構造が訪花昆虫の形態と一致している例は古くから有名である。ふつう,ある種の花を訪れる昆虫の類は限られており,訪花昆虫の型に応じた種分化がみられる例も知られている。
同じ属の中で,ハチ,ハエ,チョウ,ガ(大型のもの,小型のもの),甲虫など,訪花昆虫の差に対応して,花の色,花弁や柱頭などの構造がいろいろな型に多様化する例が,ランなどいくつかの例で知られている。被子植物の多様化を明らかにする鍵の一つと考えられるこの種の研究を花生物学floral biologyなどということもあり,この分野での実証的な研究が期待されている。
執筆者:岩槻 邦男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
花粉が昆虫によって雌しべの柱頭に運ばれる花をいい、特定の昆虫によって媒介されるものと、そうでないものとがある。
虫媒花には、昆虫を誘引するための美しい花弁、萼(がく)、包葉などをもち、蜜腺(みつせん)が発達し、強い芳香を出すものが多い。花粉は少量で粘液や突起などで昆虫に付着しやすく、花の構造も昆虫の形とよく適合している。たとえば、ある種のランは花弁に昆虫の雌に似た複雑な模様をもち、これによって雄を引き付け、サルビアの花では、マルハナバチが止まると雄しべが揺れ動いて花粉をハチの背中につける。
[吉田精一]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…動物によって花粉が媒介されるものを動物媒というが,コウモリ媒,カタツムリ媒のように特殊な生物によるものや,いくつかの種による鳥媒など多少珍しいものもあるが,圧倒的に多いのはいろいろの昆虫によって媒介される虫媒である。受粉に関与する昆虫にはさまざまのものがあり,古くから虫媒花と昆虫の関係についてはよく観察されている。花と昆虫が互いを制約しながら進化している例も多く,共役進化co‐evolutionの典型例としてあげられることが多い。…
…エンドウやイチゴで知られているように,花が開く前にすでに受粉が終わっていることもあるが,普通は開花した後になんらかの方法で花粉が柱頭まで運ばれて受粉する。その方法には昆虫(虫媒花),鳥,コウモリなどの動物によるものと,風(風媒花)や水(水媒花)の無生物によるものに二大別される。前者では,昆虫などを誘うために美しい花が多く,においを出したり,蜜腺(スイカズラ),花盤(ミカン),腺体(ヤナギ)をもち,みつを分泌しているものも多い(図4)。…
※「虫媒花」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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