イタリア・フランス合作映画。1964年作品。監督ピエル・パオロ・パゾリーニ。原題どおり「マタイによる福音書」に従い、キリストの生涯を追った作品。処女懐胎、イエスの誕生、イエスの洗礼、悪魔の誘惑、イエスの奇跡、最後の晩餐(ばんさん)、ゲツセマネの祈り、ゴルゴダの丘、復活のエピソードで構成されているが、キリストや聖書についての一般通念を否定するような激しいものであった。キリスト(エンリケ・イラソキEnrique Irazoqui、1945― )が民衆に訴えかける様子は、まるでアジテーションのようであり、その肖像にはプロレタリアート解放を訴える左翼運動の活動家のような生々しさがある。また監督がマリア役を実母スザンナに演じさせたため、自らをキリストになぞらえるものとして物議をかもした。バッハやモーツァルトのほか、プロコフィエフ、オデッタOdetta Holmes(1930―2008)の歌う黒人霊歌、コンゴおよびブラジルの民俗音楽、ロシア革命歌などの音楽が使われているのも異色である。
[出口丈人]
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