日本大百科全書(ニッポニカ) 「女性の解放」の意味・わかりやすい解説
女性の解放
じょせいのかいほう
The Subjection of Women
イギリス古典経済学の完成者J・S・ミルの著書。1869年ロンドンで刊行された。ミルは本書で、当時のイギリスにおける女性の法的隷従がいかに不合理な理由によるか、またそのことが女性のみならず社会全体にいかに不正をもたらしているかを鋭く指摘した。各人の自由の拡充こそ社会の進歩だと信ずる彼は、男性同様女性にも政治的、社会的自由を認めること、女性の解放はそれ自体正義の要求であり、人間の解放を意味すると主張した。ミルのこのような主張は、一面では19世紀後半の社会改良主義の影響を、他面ではミルの妻であったテーラー夫人の影響を受けたものといわれる。ミル自身も1867年に下院で女性参政権を提案していたが、本書は各国の女性参政権運動の理論的根拠となった。
[大木基子]
『大内兵衛・大内節子訳『婦人の解放』(岩波文庫)』