欲求demand、また、動因driveとほぼ同様に用いられる。生活体の内的状態に関係し、この状態の不均衡を均衡させる働きであって、逆説的には要求阻止の状態が要求を発生させる。
[小川 隆]
要求は生体の個体保存、種保存に主としてかかわる生得的・一次的要求と、経験を通じ環境に適応するように習得された二次的要求とに区別される。個体保存にかかわる一次的要求としては、飢え・渇き・眠りなど生理的均衡の維持、ホメオスタシスhomeostasis(体内の安定を保とうとする傾向)、有害刺激からの逃避など、生存に直接かかわるもののほか、直接には生存に関係しない、探索・活動・好奇などがあげられる。種の保存にかかわるのは、直接には性の要求であるが、間接には社会的親和affiliationなどもあげられる。
食・性の一次的要求は遺伝的でありながら、実際には経験によってさまざまに習得され二次的要求として発現する。たとえば、食欲は社会的・地域的諸条件に基づいた食習慣に制御される。すなわち、空腹感は生理的必要よりも食事回数の習慣により左右されるし、食物に対する嗜好(しこう)は地域によって著しく違うことがある。一人で食事するか集会で食事するかで食事量が異なることもある。性の要求もホルモンの分泌、排卵周期などに支配されながら、去勢や老化によってこれらが抑止されても低下しない。
一次的要求と二次的要求とを分離すること、強さを比較することはむずかしい。薬物中毒addictionは二次的要求であり、社会的慣習によって促進される。ここでは生存にとって有害な薬物を求める欲求が強められている。金銭、地位、名誉、またスポーツ、芸術などは二次的要求であるが、人によっては食欲と同様な強い欲求である。
[小川 隆]
要求の低減need reductionは行動の完了にとって重要で、これを行動の原理とする学説も生まれたが、要求低減の対象は一次的、二次的に広い範囲にわたっている。空腹時には主食が求められるが、満腹時でも菓子や果物が求められる。甘味を求めるためには、栄養のない人工甘味料が砂糖のかわりに求められる。
外的障害やいくつかの要求の競合や実行のできない要求水準のために要求が阻止されると欲求不満の状態となり、攻撃、代償、転位などの退行した行動が生じる。
[小川 隆]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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