改訂新版 世界大百科事典 「子ども劇場」の意味・わかりやすい解説
子ども劇場 (こどもげきじょう)
children's theatre
児童・青少年のための専用劇場。〈児童劇場〉〈青少年劇場〉などと呼ぶこともある。成人のための一般の劇場と比べて,その歴史はきわめて新しい。一般の劇場やホールで子どものための演劇が上演されることはかなり古くから行われたが(児童劇),子ども観客のための専用の〈子ども劇場〉が設けられるのは,世界では,社会主義のロシア共和国が誕生した翌年の1918年に開設された〈モスクワ・ソビエト第1児童劇場〉が最初だとされる。〈子ども劇場〉は経済的に採算がとりにくいという事情のため,すべて国営でまかなわれる仕組みの社会主義国で発展をとげ,旧ソ連をはじめとする東欧諸国の〈子ども劇場〉が,その数も多く,内容も充実していた。1980年代の初めの段階で,ソ連には約160の〈子ども劇場〉があり,毎年増加していた。欧米諸国でも,国や自治体などの補助による個性をもった〈子ども劇場〉がつくられている。日本でも1960年代以後,子どものための専用の劇場やホールが少しずつ設けられるようになった。横浜の神奈川県立青少年センターホール(1962設立),東京都児童会館ホール(1964設立),プーク人形劇場(1971設立),兵庫県立尼崎青少年創造劇場(1978設立),東京の江東区児童会館児童劇場(1982設立)などが,その代表的なものである。しかし,日本のこれらの施設が欧米や社会主義国のそれと違うのは,プーク人形劇場を除き,ほとんどが劇団をもたない貸し劇場である点である。それが,日本の〈子ども劇場〉の特徴といってよいだろう。
子ども劇場・おやこ劇場運動
1960年代の半ば,テレビや漫画などのマスコミの,子どもの生活への影響に危機感をもった母親たちが,地域の青年たちと協力し,会員制で,子どもたちによい演劇や音楽を鑑賞させようとする運動を始めた。福岡から始まったこの運動は急速にひろがり,74年には〈全国子ども劇場おやこ劇場連絡会〉という全国組織が発足した。それは,演劇や音楽の鑑賞だけでなく,子どもの自主的な文化活動も併せて推進するもので,海外にも例をみない日本独特の子ども文化運動といえる。97年末で,全国の市町村に741の劇場組織と,約41万名の会員をもつ大きな運動に発展している。
執筆者:冨田 博之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報