改訂新版 世界大百科事典 「学生歌」の意味・わかりやすい解説
学生歌 (がくせいか)
芸術歌曲に対する民衆歌曲の一種。特にドイツの伝統派男子学生が儀礼的あるいは無礼講的に懇親会などで歌ってきたもの。酒や恋や友情,母校や祖国や自由など学生身分と密着したテーマが多いが,たとえば1858年以来160版以上を数えるラール版《総合学生歌集》に《野バラ》や《ローレライ》が収められているように,一般民謡との結びつきも強い。《カルミナ・ブラーナ》など中世以来の学生歌の集成公刊は18世紀末に始まり,ナポレオン戦争を通じて高まった自由主義的ないし愛国主義的なブルシェンシャフト(学生団)結成の動きと相まって,19世紀前半に新旧の歌を集めた多くの学生歌集が編まれた。ブラームスは《大学祝典序曲》(1880)の中に4曲の学生歌をちりばめているが,そのそれぞれ(《我らは築きぬ堂々の館》《静粛に諸君,耳傾け給え真摯な響きに》《新入り歓迎歌》《されば楽しまん》)が学生歌の歴史と傾向を反映している。もっともその第3歌は大学受験ラジオ講座のテーマ音楽として日本ではポピュラーになったが,新入生が先輩に奉仕を強いられた過去の因襲を想起させるためであろうか,現代の学生歌集には見当たらないようである。
執筆者:新井 皓士
日本
校歌,寮歌,応援歌そして《デカンショ節》や《チャカホイ節》等,学生間の俗謡を学生歌といい,集団への帰属意識を鼓吹する形で歌われることが多い。寮歌がその代表で,1892年の第一高等中学校寮歌《雪ふらばふれ/ふらばふれ》(落合直文作詞,《月と花とは昔より》の替歌)がその最初である。94年に第一高等学校(一高)となり,翌年の寮開設記念祭から毎年寮歌を作りはじめた。はじめは唱歌,軍歌の替歌であったが,1901年の《アムール河の流血や》(塩田環作詞,栗林宇一作曲),《春爛漫の》(矢野勘治作詞,豊原雄太郎作曲)あたりから学生自身が作曲するようになった。翌02年の《嗚呼玉杯に》(矢野勘治作詞,楠正一作曲)は,新時代を象徴する歌として演歌師によっても歌い広められ,学生のみならず一般の流行歌となった。その後一高にならって多くの学校で寮歌が作られた。学生歌の歌詞は漢詩の読み下し調のものが多く,その旋律は唱歌や軍歌と同じ形である。リズムは逆付点のスコッチスナップで力強く歩く響きをもつものが多い。
→校歌
執筆者:繁下 和雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報