改訂新版 世界大百科事典 「寄生虫アレルギー」の意味・わかりやすい解説
寄生虫アレルギー (きせいちゅうアレルギー)
parasite allergy
寄生虫とくに蠕虫(ぜんちゆう)感染者や寄生虫を取り扱う機会の多い研究者などにみられるアレルギー反応をさす。寄生虫によるアレルギー症状をはじめて認めたのはゴルトシュミットRichard Benedict Goldschmidt(1910)で,ウマカイチュウの研究をしている動物学者の中に結膜炎,頭痛,手指の腫張や痛み,激しい咳発作や喘息(ぜんそく)症状を示す者があることを記載している。寄生虫感染によってアレルギー反応が起こる理由としては,寄生虫の虫体あるいは分泌排出物中にアレルゲンとなる抗原物質が含まれていること,感染によってIgE抗体の産生を効果的かつ持続的に促すヘルパーT細胞が容易に誘導されてくることなどが挙げられる。寄生虫に対するIgE抗体が産生されると,それは組織内のマスト細胞(肥満細胞)や血液中の好塩基球の細胞膜上のレセプターに結合する。そして2分子以上の抗体が抗原と反応すると,その刺激が細胞内に伝えられ,細胞は脱顆粒現象を起こしてヒスタミンその他の化学伝達物質を放出する。これらの物質によって,血管透過性の亢進,平滑筋の収縮,好酸球数の増加・局所への遊走などが起こり,いわゆるⅠ型アレルギーの症状が発現するのであるが,寄生虫感染によるその代表的なものを挙げると表のようになる。なお,IgE抗体の存在は,即時型皮内反応,プラウスニッツ=キュストナー反応Prausnitz-Küstner reaction,RAST(radioallergosorbent testの略)などによって証明することができる。なかでも皮内反応はスクリーニングテストとして住血吸虫症や肺吸虫症の集団検診にも用いられるほか,アメーバ性肝膿瘍の場合高率に皮内反応陽性者が認められ,赤痢アメーバ無菌培養株からのアレルゲン抽出も可能であることから,アメーバ症の診断にも有用であると考えられる。また蠕虫感染によって,寄生虫抗原に特異的なIgE抗体のみならず,血清中の総IgE値も非特異的に上昇することも知られている。そのほか,他の型のアレルギーとして,抗原抗体複合体によるⅢ型アレルギーが,四日熱マラリアやマンソン住血吸虫症の際の糸球体腎炎としてみられ,また細胞性免疫の関与するⅣ型アレルギーは,各種の原虫症のほか,旋毛虫症,マンソン住血吸虫症(虫卵結節の形成)の場合にも認められる。
→アレルギー
執筆者:小島 荘明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報