はいきゅうちゅう‐しょうハイキフチュウシャウ【肺吸虫症】
- 〘 名詞 〙 肺吸虫が肺臓に寄生して起こる病気。熱はほとんどなく、せき・痰(たん)も少ないが、ときに喀血することがある。地方病的に分布し、日本では本州中部以南の山間地に見られる。肺臓ジストマ症。
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
肺吸虫症(肺ジストマ症)
はいきゅうちゅうしょう(はいジストマしょう)
Paragonimiasis (Pulmonary distomiasis)
(感染症)
肺吸虫症は、名前のとおり肺に吸虫類が寄生する病気です。成虫は体長1㎝前後のレモン型をしています。
日本では、ウエステルマン肺吸虫と宮崎肺吸虫の2種が知られていて、主に前者はモクズガニ、後者はサワガニを生で食べて感染します。また、肺吸虫の幼虫が寄生したイノシシの肉を生で食べて感染した例があります。
肺に寄生した場合の主な症状は、咳と血の混ざった痰(血痰)です。胸水がたまったり、空気やガスがたまった状態の気胸を起こしたりした場合には肺が苦しくなります。
肺吸虫は、先に述べたマンソン孤虫と同じように、ほかの場所にも寄生します。とくに、脳に寄生した場合は脳腫瘍に似た症状を引き起こし、重症になります。
肺吸虫成虫が定着した部位は、胸部X線検査で肺の影として映り、結核や肺がんと間違われることがあります。痰や便のなかから虫卵を検出することで診断します。また、肺吸虫が定着せず肺を移動している場合、X線検査で肺水貯留などが見つかることがあります。
肺吸虫症では、白血球の一種の好酸球が増加することが多く、胸部X線検査で異常があり、好酸球が増えていたら肺吸虫症を疑います。肺に病変があるのに虫卵が見つからない場合や、肺以外の場所に寄生している場合には、血清検査で診断します。
抗寄生虫薬のプラジカンテル(ビルトリシド)が有効です。胸水がたまっている場合には、胸水を抜いてから治療します。
血痰が出たら、肺吸虫症の可能性と同時に結核の可能性もあるため、両方の検査が必要です。
予防としては、モクズガニやサワガニ、イノシシの肉などを生で食べないようにします。同時に、それらを調理した包丁やまな板はよく洗うようにしてください。
奈良 武司
肺吸虫症
はいきゅうちゅうしょう
Paragonimiasis
(呼吸器の病気)
肺吸虫は、もともと野生のイヌ科、ネコ科などを宿主とする寄生虫ですが、ヒトの体内においても成虫になるため、人獣共通感染症に数えられています。日本でみられるのはウエステルマン肺吸虫と宮崎肺吸虫(少数)です。
モクズガニやサワガニに寄生する幼虫の経口摂取によるもので、カニの調理過程で幼虫が手指、包丁、まな板などに付着し、ヒトの口に運ばれます(図17)。また、イノシシの肉の刺身を食べることでも発症しています。
経口的に摂取された幼虫は腸管を貫通し、発育しながら腹腔に出ます。いったん腹壁筋内でとどまって発育し、再び腹腔内に入って横隔膜をへて胸腔内に侵入し、感染3~4週間で肺へ移行します。肺内で虫嚢を形成し、産卵します。
宮崎肺吸虫は、本来ヒトが好適宿主ではないため、胸腔に侵入した虫体は胸腔内を徘徊し、肺実質に虫体が侵入しても虫嚢腫は形成されません。病変は胸膜腔が主であり、胸膜炎や気胸を起こします。
咳、胸痛、血痰が主症状で、胸水貯留で発見されることもあります。
血液検査では、好酸球の増加およびIgEの上昇が重要な所見で、胸部X線写真では、診断時期によってさまざまですが、胸水の貯留や気胸、結節影などが認められます。
確定診断は、喀痰または糞便、胸水からの虫卵の検出によって行いますが、検出率は50%と低いため免疫学的診断法(血清中特異抗体)も補助診断として用いています。
ブラジカンテルが最も優れた薬剤で一般的です。副作用は一般に軽く、一過性の吐き気、腹痛、肝障害、発疹あるいは頭痛、めまいなどがみられます。
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
肺吸虫症(吸虫症)
概念
わが国ではウェステルマン肺吸虫(Paragonimus westermani)と宮崎肺吸虫(P. miyazakii)が知られており,それぞれ臨床像が若干異なる.いずれも小規模な集団感染事例として報告されることが多い.
(1)ウェステルマン肺吸虫症
病因・感染経路
第二中間宿主である淡水産のモクズガニに生息するメタセルカリアの経口摂取により感染する.感染にはこれらの生食によるほか,汚染した調理器具を介して感染することもある.その他,待機宿主であるイノシシの生食でも感染しうる.感染したメタセルカリアは小腸上部から腹腔内に移行し,その後肺へと移行する.およそ1カ月で肺実質に到達して虫囊を形成し,さらに1カ月後から産卵を開始する.このほか,脳,皮膚,肝臓,腸間膜などあらゆる臓器へと迷入する例もみられる(肺外肺吸虫症).
臨床症状
無症状に経過する場合もあるが,多くは幼虫移行に伴って,腹痛,下痢,胸痛などを引き起こす.また,胸腔内に侵入した結果,胸水貯留や気胸を生じるほか,産卵に伴い,咳,痰,喀血などがみられることもある.さらに脳肺吸虫症では痙攣,頭痛,麻痺などの症状も認められる.
診断・治療
糞便および痰から虫卵を検出する.このほか,血清もしくは胸水を用いた免疫診断も有効であり,食歴などの病歴の聴取も十分に行う.一方,好酸球増加やIgEの上昇は本疾患を疑う上で参考になる.治療はプラジカンテルを3日間投与する.
(2)宮崎肺吸虫症
病因・感染経路
第二中間宿主であるサワガニの生食によって感染する.ウェステルマン肺吸虫と異なりほとんどは虫囊を形成せず,未熟な成虫のまま胸腔内を移行し,胸水の貯留や気胸を引き起こす.
臨床症状
気胸,胸水貯留による胸痛,呼吸困難感などを引き起こす.
診断・治療
IgEの上昇,好酸球増加などが参考になり,血清や胸水を用いた免疫診断が有効である.虫卵の検出は例外的である.治療はプラジカンテルを3日間投与する.[前田卓哉]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
はいきゅうちゅうしょう【肺吸虫症】
肺吸虫による感染症で、日本ではウェステルマン肺吸虫と宮崎肺吸虫の2種類が原因となっています。
中間宿主であるモクズガニ、サワガニなどの川ガニにいる(被嚢(ひのう))幼虫を摂取して感染することが多いのですが、ブタやイノシシの筋肉内にいる幼虫を知らずに食べて感染することもあります。
●症状
喀血(かっけつ)や血(けっ)たん、ときには膿胸(のうきょう)や自然気胸(しぜんききょう)がみられ、胸部X線検査で、しばしば肺結核や肺がんと似た影像がみられます。
肺吸虫が脳に迷入すると、経過がよくありません。
宮崎肺吸虫は胸腔(きょうくう)にいることが多く、自然気胸と胸水貯留(きょうすいちょりゅう)が主症状となります。
●治療
プラジカンテルを2~3日、内服します。
●予防
川ガニを生(なま)で食べないことです。また川ガニを調理した包丁やまな板には被嚢幼虫(ひのうようちゅう)が付着していることがありますので、熱湯をかけてきれいにしてから使用しましょう。
出典 小学館家庭医学館について 情報
肺吸虫症
はいきゅうちゅうしょう
pulmonary paragominiasis
肺ジストマ症。肺吸虫の成虫が肺組織に寄生して起す寄生虫症。肺吸虫は淡水産のサワガニ,モクズガニ,ザリガニなどを第2中間宿主とするので,これらを生食した人畜に径口感染して肺に寄生する。血痰や慢性の咳を伴い,肺結核などとまちがえることがある。駆虫にはビチオノール,アンチモン剤などが用いられる。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
肺吸虫症
肺ジストマ症ともいう.吸虫類住胞吸虫科の寄生虫の感染による症状.血痰などがみられる.
出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の肺吸虫症の言及
【チュウゴクモクズガニ】より
…中国からヨーロッパへの移住は黄河か長江(揚子江)から船のバラストタンクに入った幼ガニが運ばれたものと考えられるが,アメリカから日本へ入ったアメリカザリガニとともに,甲殻類の移住の好例としてあげられることが多い。韓国ではしょうゆ漬,中国では老酒(ラオチユウ)に漬けて食べるが,モクズガニと同様に肺吸虫症を引き起こすウェステルマン肺吸虫の第2中間宿主であるので注意を要する。【武田 正倫】。…
※「肺吸虫症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」