日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
平和のためのパートナーシップ
へいわのためのぱーとなーしっぷ
Partnership for Peace
略称PfP。1994年1月にブリュッセルのNATO(ナトー)(北大西洋条約機構)首脳会談で発表されたヨーロッパにおける政治・安全保障協力のための枠組み。協力の具体的内容は、国防費や国防計画の透明性を高め、軍の民主的コントロールを達成し、平和維持活動、災害救助活動、人道援助などの分野でNATOと共同行動をとる能力を養う、というもので、軍事的脅威については脅威に直面した際に協議を行うとされていた(1998年3月、セルビアのコソボ自治州における情勢悪化に際してアルバニア政府が初めてPfPに基づく協議を要請、NATO理事会が開催された)。参加希望国はまずPfPの共通枠組み文書に署名し、そのうえで協力内容についてNATOと協議をして個別プログラムを作成、それに基づいて活動を行う。1997年末までにロシアを含めて27か国が調印したが、参加国は、NATO加盟を希望し2004年に加盟を実現したルーマニアやブルガリアから中立国のスイス、さらには中央アジアのアゼルバイジャンまで、多岐にわたった。
そもそもPfPは、孤立感を深めていたポーランドやチェコなどの中欧諸国によるNATO加盟希望と、アメリカの対ロシア配慮との妥協の産物として出てきた経緯があるが、中欧諸国はPfPの個別プログラム作成および実施プロセスを通して自国軍隊のNATOへの適応性をアピールすることで、NATO東方拡大を促進した側面も指摘できる。なお1997年5月にはPfPに基づく協力関係をより強化する方針が打ち出された。具体的には政治的協議メカニズムの強化、参加国によるPfPプログラムの意思決定メカニズムへの関与、NATO主導の平和維持活動における共同訓練実施などが取り決められ、PfPの強化はヨーロッパ安全保障秩序構築の基本的な要素として位置づけられた。
[広瀬佳一]