主張・利害が対立している場合,当事者の一方または双方が,その主張・利益の一部を断念,譲歩して合意の形成を図ること。政治技術の一形態。強制や奨励と異なり,妥協は,みずからの要求水準を下げることによって相手方の同意を調達する方法であり,制裁,報酬の手段をもたない場合にも可能な政治技術である。この点では説得と似ているが,他面,妥協は説得と異なり,利益の違いを否定したり解消したりしないで,あくまで相互の要求の正当性を認めたうえで合意形成を図るところに特徴がある。
したがって妥協が成立するのは,合意が必要であり,可能であり,かつ有益であると認められた場合に限られる。すなわち,まず主張・利害がはじめから完全に一致しているか,(説得によって)一致させうるか,あるいは(強制,奨励によって)一方的に主張を貫徹できる場合には,妥協の必要はない。他方,合意形成が不可能なほど要求が対立しているか,合意によって得られる利益の共通性がまったく欠けていれば,妥協の余地はない。また,譲歩がそれを上回る利益をもたらすと判断されない限り,妥協は成立しない。
以上の条件からいって,妥協が他の政治体制にも増して,とくに現代民主主義政治において最も広範に用いられる政治技術となることは当然であろう。第1に,現代化に伴う社会の複雑化・多様化は,潜在的に利害対立の可能性を高めるが,同時に各集団の自律性を弱め,相互依存を強めることによって合意への基本的条件をつくりだす。この社会的条件は,民主主義的代表機構が保障されれば,集団的利益主張の対立として政治の場に顕在化する。この調整の課題は,政治的リーダー(政治家,官僚,圧力団体指導者)間の妥協を通じて達成されざるを得ない。
第2に,集団的利害の多様化と利益代表の制度的保障とは対立軸の多元化をもたらし,原則的・イデオロギー的対立にかわって,具体的・個別的利益をめぐる諸対立が政治の中心を占めることになる。かくて非妥協的対立から,妥協の余地をもつ対立へと対立の性格が変化する。
第3に,自由主義,民主主義の発達とともに,行政執行にあたって行政対象の合意を得ることが必要となり,多数決原理のもとに合法的に下された決定に関しても,強制による執行は困難となる。このため行政過程においても,統治者と被統治者の間の説得と妥協が日常茶飯事となる。
妥協による合意形成は,説得とならんで民主政治に不可欠の政治技術となったが,政治的リーダーは,集団的利益の集約過程でしばしば道徳的・感情的シンボルに訴えるため,ここで生まれた非妥協的支持がリーダーの妥協の余地を著しく制限する事態も発生する。妥協による合意形成を確保するため,リーダーが決定段階で民主的手続や制度を形骸化したり回避したりする傾向をもつのはそのためである。
→政治技術
執筆者:大嶽 秀夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…帝位を継ぐべき息子ルドルフは心中し,妃エリーザベトはアナーキストの凶刃に倒れた。66年オーストリアは,ケーニヒグレーツKöniggrätzの戦でプロイセンに敗れ,翌67年いわゆるアウスグライヒAusgleich(妥協)を通してオーストリアとハンガリーとの二重帝国が成立し,オーストリアは軍事と外交を除くすべてを自立したハンガリーの手にゆだねた(オーストリア・ハンガリー二重帝国)。第1次世界大戦前の相対的安定期にはオーストリア・ハンガリーの経済は急速に発展した。…
…1848年革命を鎮圧したのち〈新絶対主義〉体制をうちたて,自国内の諸民族の抑圧をはかってきたハプスブルク帝国も,59年の対イタリア戦争以来,体制の再編成を迫られた。連邦制や中央集権制などの試みの末,66年の普墺戦争の敗北を経て,決定的にハンガリーとの二重国家の形成に向かい,67年オーストリアとハンガリーのアウスグライヒAusgleich(〈妥協〉の意。ハンガリー語でKiegyezés)が成った。…
…ことに59年のイタリア独立戦争,66年の普墺戦争に敗れてイタリアとドイツから排除されると政策上も中央集権化と諸民族の連邦化との間を動揺する。ドナウ帝国の再建のために67年ハンガリーとアウスグライヒAusgleich(妥協)を行い,オーストリア・ハンガリー二重帝国を成立させるが,犠牲にされたスラブ系諸民族の不満は高まる。78年ベルリン会議後のドイツ・オーストリア同盟も,ロシアとの関係を悪化させてスラブ系諸民族をロシアに近づけ,また西欧列強からも孤立してドイツへの従属を深め,オーストリア帝国主義は民族運動と帝国主義の交錯するバルカンの泥沼にはまり込む。…
…正式名称=ハンガリー共和国Magyar Köztársaság∥Republic of Hungary面積=9万3030km2人口(1995)=1027万人首都=ブダペストBudapest(日本との時差=-8時間)主要言語=ハンガリー(マジャール)語(公用語)通貨=フォリントForint東欧中部に位置する共和国。北はスロバキア,北東はウクライナ,東はルーマニア,南はセルビアのボイボディナ自治州,クロアチア,西はスロベニア,オーストリアと国境を接する内陸国。…
…かくして,西欧における宗教的寛容の主張は,個人主義的自由主義の思想的起源をなすものであった。寛容法
【政治における寛容】
政治がつねになんらかの利害の調整関係を含むものであるとすれば,個別の立場を相互に容認し,その間の妥協をはかるという意味での寛容の考え方は,政治の登場とともに古いといえよう。すでにアリストテレスは,妥協を政治の根本原理の一つとしている。…
※「妥協」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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