行為の目的、行為の義務、正邪の基準を幸福に置く倫理的立場。広義の目的論の一形態である。カントのように目的よりも行為の原則や動機を重んじる立場や、キニコス学派、ストア学派やショーペンハウアーのように、幸福を消極視したり否定したりする立場と対立するが、なんらかの意味での幸福を全面的に否定する道徳観はまれである。また、人格の完成は幸福の一部とみなされるから、完成説はかならずしも幸福主義と矛盾しない。幸福主義は、幸福の具体的内容によってさらに細分化される。たとえば、古典的代表例であるアリストテレスでは、万物の目ざす最高善は徳に従った魂の卓越した活動と考えられ、幸福と快楽との同一視が否定されるが、キレネ学派、エピクロス、ホッブズ、功利主義者などは、両者をしばしば同一視する。また、幸福の対象が自己、他人、社会の成員全体のいずれであるかに応じて、幸福主義は利己的、利他的、功利主義的となる。
[杖下隆英]
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