改訂新版 世界大百科事典 「延性破壊」の意味・わかりやすい解説
延性破壊 (えんせいはかい)
ductile failure
物体に引張力を加えた場合に,物体が塑性的に引き延ばされ,その後,破壊に至る場合を延性破壊という。これに対し,ガラスの破壊のように破壊の進行速度の速い脆性破壊(ぜいせいはかい)があるが,この両者を区分する絶対的な基準はない。延性破壊の過程の多くは,材料中に存在する介在物や析出物あるいは転位の集積部のようなひずみの不連続な部分で塑性変形によって微小空洞が発生・成長する過程と,それらが合体する過程の二つに分けられる。延性破壊した材料の破面には,ディンプルdimpleと呼ばれる多数の小さなくぼみ状の模様が観察される。相対する破面上におけるディンプルの向きによって破壊に寄与した応力状態がわかる。延性破壊の場合には,材料に過大な応力が加えられる,いわゆる超荷重破断であり,脆性破壊に比して比較的重大な事故に至らない場合が多い。しかし,常温で延性的な材料であっても,低温においては脆性的な挙動を示すものもある。
執筆者:岸 輝雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報