固体材料が,外力の作用のもとに二つ,またはそれ以上の部分に分離する現象をいう。このときの応力(単位断面積当りの荷重),すなわち破壊応力を破壊強さ,または破壊強度という。とくに平滑材料を引張り,あるいは曲げ変形した場合の破壊強さを,それぞれ引張強さ,曲げ強さと呼び,破壊を取り扱うもっとも基本的な値となる。
破壊現象は,材料自身の特性,負荷の条件および化学的環境により,さまざまな形態に分類することができるが,原子レベルで見れば,原子間結合がへき開,またはせん断(すべり)により分断される現象である。原子間結合を引き離すのに必要な応力,すなわち理論的破壊強さは,縦弾性係数(ヤング率),表面エネルギーおよび原子面間隔に支配されている。しかしながら,この理論的破壊強さは,ふつう用いられている材料の強さに比べてかなり大きい場合が多い。その原因は,実際の固体内には,原子の配列の乱れや原子の欠落などによるいわゆる格子欠陥,あるいは,それよりも大きな尺度の微小な空孔,亀裂が存在するためで,これらの欠陥および材料内に存在する分散粒子,介在物の近傍に応力集中が生じ,この応力集中のために理論強さより低い荷重で材料は破壊する。近年,材料の破壊を,材料に負荷された応力のみならず,これら材料内の欠陥,とくにもっとも危険な亀裂状欠陥を考慮して,定量的に取り扱う破壊力学が発展してきた。この破壊力学により,欠陥を含む材料の破壊抵抗,すなわち,破壊靱性(じんせい)を評価することが可能になり,さらに構造物の寿命・余寿命をも評価する可能性が生じ,破壊の取扱いに大きな発展をもたらしている。
破壊の様式は,いくつかの方法により分類しうる。よく用いられるのが,欠陥の成長の速さによって,破壊を脆性(ぜいせい)破壊と延性破壊に大別する分類法である。微視的に見ると,前者は塑性変形を伴わないへき開破壊に,後者はすべり面分離破壊におのおの対応するものである。走査型電子顕微鏡による微視破面は,前者の場合へき開面を示し,後者はディンプル模様を呈している。また,巨視破面は,前者では垂直破断を,後者ではカップアンドコーン,またはすべり面分離を示す。しかし,微視的に見ると,延性の大きな材料でも負荷の条件および環境により,巨視的には亀裂進展速度の大きい脆性破壊を起こす場合がある。例えば,板厚が小さいときに延性を示す材料も,板厚が増すと脆性挙動を示す。これは材料内部の力学的条件が平面応力状態から平面歪状態に遷移するためである。また,軟鋼は,低温で脆性破壊を生ずる場合がある(低温脆性)。このほかに,水素に起因する水素脆性,焼戻しにより生ずる焼戻し脆性など,化学的環境および材料内の不純物原子が引き起こす脆性破壊も存在する。
もう一つの分類法として重要なのが,金属組織学的に,結晶粒内破壊と結晶粒界破壊とに分けるもので,とくに粒界破壊は,応力腐食,クリープ破壊などにおいて重要な役割を果たす。このほかに,巨視的な観点から,破壊は,クリープ破壊,疲労破壊などに分類できるが,破壊の微視機構は,応力集中により材料組織の不均一部分に微視割れが生じ,それが成長するか,合体する過程を経て,最終的な破壊につながる場合が多い。このとき,荷重の低下を伴わない破壊を安定破壊(安定亀裂成長),荷重低下を伴う最終破壊を不安定破壊(不安定亀裂成長)と呼ぶ。
→延性破壊 →脆性破壊
執筆者:岸 輝雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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