内科学 第10版 「心房粗動」の解説
心房粗動(上室頻脈性不整脈)
概念
粗動では心房は規則正しい220〜370拍/分の興奮に陥っている.
分類
タイプIの心房粗動は,ペーシングで停止または補足可能でレートは240〜300拍/分と比較的遅い.さらに心電図所見から通常型と稀有型に分類される.タイプⅡは,ペーシングが無効な粗動で,レートは340〜440拍/分と速い.
原因・成因
心房粗動は基礎心疾患に合併することが多い.通常型心房粗動の機序はリエントリーで,三尖弁輪を下からみて反時計方向に興奮が右心房を旋回する(図5-6-10).同一例で旋回方向が逆になる例もある.心臓手術後の心房切開部位を旋回するマクロリエントリーも同一に扱われる.稀有型心房粗動では不明点が多い.
疫学
心房細動の1/7〜1/20と頻度は少ない.
病態生理
粗動時は2:1,4:1房室伝導を示すことが多い.まれに房室伝導が異常に亢進している例があり,1:1伝導をきたし生命も危険となる.
臨床症状
動悸を伴う.房室伝導が良好な例では,頻脈のために血圧低下やショックをきたす.
診断
心電図で心房粗動は規則正しいF波を認める.F波のレートは220〜370拍/分である.通常型ではⅡ,Ⅲ,aVFで鋸歯様の下向きのフレは認めるが(図5-6-11A),三尖弁を時計方向に旋回した場合は上向きのフレとなる.稀有型では鋸歯状のフレはみられない(図5-6-11B).心房細動と粗動は互いに移行しあう例がある.
経過・予後
基礎心疾患によって規定される.
治療
停止には伝導を抑制するNaチャネル抑制薬(プロカインアミド,ジソピラミド,シベンゾリン,アプリンジン,ピルジカイニド)を用いる.迷走神経遮断作用を有する抗不整脈薬を用いると粗動のレートが低下しても停止しない限り,房室伝導が亢進するために心室レートが上昇する危険があり逆説的頻拍とよばれる.その回避には房室伝導の抑制薬(ジギタリス,Ca拮抗薬,β遮断薬)を併用する.
予防は上記の抗不整脈薬以外,不応期を延長させる抗不整脈薬を用いる.薬剤治療の困難なことが多い.
通常型心房粗動は三尖弁輪と下大静脈の間の峡部を興奮旋回路とすることから(図5-6-10),この部位をカテーテルアブレーションすることで治癒させることができる.ほかの粗動でも起源が同定できればカテーテルアブレーションは有効である.[相澤義房]
■文献
Cappato R, Calkins H, et al: Updated worldwide survey on the methods, efficacy, and safety of catheter ablation for human atrial fibrillation. Circ Arrhythm Electrophysiol, 3: 32-38, 2010.
Connolly SJ, Ezekowitz MD, et al: Dabigatran versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med, 361: 1139-1151, 2009.
児玉逸雄,他:不整脈薬物治療に関するガイドライン(2009年改訂版),日本循環器学会,http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2009_kodama_h.pdf
奥村 謙,他:不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版),日本循環器学会,http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_okumura_h.pdf
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報