出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
心筋を侵し心臓拡大,心臓肥大をきたす疾患の総称。原因不明のものを特発性心筋症idiopathic cardiomyopathy,診断がついた全身性疾患との関連が明らかなものを特殊な心筋疾患(従来,続発性心筋症といわれていた)と呼ぶ。しかし後者は全身性疾患名を用いればよいので,多くの場合,心筋症という言葉は特発性心筋症を指していう。本疾患は日本では比較的若年の20~40歳代に発症し,全心臓疾患の3~15%と必ずしもまれな疾患でないこと,原因不明とはいうものの家族性に発症したり,感冒様症状から発病してくる場合があること,さらに急死の原因になることなどから,注目されている疾患である。心臓の侵され方,治療,予後などからイギリスのグッドウィンJ.F.Goodwinの簡潔な分類(1970)が用いられている。すなわち肥大型心筋症hypertrophic cardiomyopathy(HCMと略す)と拡張型(鬱血(うつけつ)型)心筋症dilated cardiomyopathy(DCMと略す)である。
異常に肥大した心筋細胞が大小不同あるいは配列の異常をきたし,心室壁の肥厚をもたらした状態である。その結果,心室腔が血液の流入充満を阻害する。しかし心筋の収縮力は保たれているため通常心臓のポンプ機能は正常である。肥大型心筋症はさらに,左心室内でとくに中隔部分の心筋の異常な突出によって血液の流出をさまたげる閉塞型と,左心室筋の平均的な肥厚がみられる非閉塞型とに分けられるが,必ずしも厳密に区別されない場合もある。非閉塞性肥大型心筋症が病状の進展によって拡張型に移行する可能性も推測されている。
心筋の変性,繊維化が起こり,心室筋の収縮不全が生ずるために心臓の拡大が著しく,ポンプ不全が特徴的である。その結果,以前につけられていた診断名鬱血型のとおり肺に鬱血症状を呈する心不全状態を将来することが多い。
いずれの型の心筋症においても異常な心電図変化で発見される場合が多く,不整脈もかなり高頻度にみられる。患者の訴えとしては動悸,呼吸困難,胸部圧迫感,疲れやすい,などが多い。確定診断は,他の心臓疾患がなく,心エコー図で壁肥厚や内腔の著しい拡大などの特徴的所見が発見されること,さらに心臓カテーテル法によって心筋生検を行い組織診断をすることによってえられる。
遺伝や病因について病型により特徴的所見がみられる。肥大型心筋症は同一家族中にみられ,心電図,心エコー図などによる近親者の異常の発見は25~35%にものぼり,常染色体優性遺伝であるとされる。一方,拡張型心筋症においてはウイルス性心筋炎が原因ではないかという疑いがもたれており,その際,初感染が無症状だったり,軽く感冒様症状にとどまったり,同時に発症がきわめて緩徐であったりするため心筋炎と心筋症との関連を断定するのに困難なことが多い。しかしコクサッキーBウイルス,インフルエンザウイルスなどとの関連が指摘されはじめている。
特発性心筋症は病型により予後は多様であり,ときに長期安静が必要となる。心筋症と診断された患者は,初期には心肥大,心電図異常等が指摘されるものの,日常生活に差しさわりのない程度に体を動かすことができる。長年そのまま経過する場合もあるが,そのほかに病状が悪化してしだいに労作に伴う呼吸困難あるいは不整脈に悩まされ,入院・退院を繰り返し死に至るものがある。通常,肥大型は不整脈による突然死,拡張型は鬱血性心不全をみることが多い。
治療は,原因疾患を治療することが不可能なため対症的に行う。しかし肥大型と拡張型とではまったく異なる。肥大型には心筋の緊張を緩解するβ遮断剤やカルシウム拮抗剤を,拡張型にはジギタリスなどの強心剤や利尿剤を用いる。閉塞性肥大型心筋症には外科的手術が試みられ,拡張型心筋症の末期には心臓移植が唯一の治療法となることがある。
執筆者:柳沼 淑夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
心筋症とは、心臓の機能異常を伴う原因不明の心筋(心臓の筋肉)の病気で、主なものに肥大型心筋症、拡張型心筋症、
診断は、心電図の変化や心エコーなどの画像診断、心臓カテーテル検査、心筋生検(心筋の組織の一部を採取して検査)などで行います。
①肥大型心筋症
心筋が非対称的に肥大する病気です。筋肉が肥大すると収縮する力は保たれますが、筋肉が厚いので伸びなくなって拡張が困難になります。約半数に家族歴があり、最近、その人たちのなかで心筋を構成する遺伝子の異常が報告されています。また、心室
症状は、疲れやすい、運動時の息切れ、胸痛、胸部不快感、失神、めまいなどのほか、不整脈がみられることがあります。一方、無症状で心電図の異常や心雑音から偶然発見されることもあります。
予後は、他の心筋症より比較的良好ですが、突然死があり、突然死の家族歴や失神の前歴、心室性不整脈などとの関連が示唆されています。また、徐々に心臓が大きくなり、後述する拡張型心筋症のように収縮能が低下して心不全が増強する場合も予後は不良で、心臓移植の適応となることがあります。
本症と診断された場合は、血行動態を悪化させないように激しい運動はひかえる必要があります。また、症状がある場合には、その程度に応じて薬物療法や肥大した心筋による
②拡張型心筋症
症状は、疲れやすい、呼吸困難、
治療は、まず過労、感染症、塩分や水分の過剰摂取などの心不全の増悪因子を避けることです。薬物治療としては利尿薬、強心薬、血管拡張薬などのほか、
予後は一般的に不良で、治療に抵抗する重症心不全を伴った場合は心臓移植の適応となります。
③拘束型心筋症
前記2つの心筋症のような心筋の著しい肥大や薄さはありませんが、心筋が拡張しづらくなる心筋症です。そのため、心室に血液を送っている心房が非常に大きくなることが特徴です。3つの心筋症のなかでは、最もまれな病気です。
症状は、疲れやすい、呼吸困難、肝臓腫大、浮腫(むくみ)などがみられます。
治療は、心不全に対する薬物療法が中心ですが、予後は一般的に不良で、心臓移植の適応となる場合もあります。
塚野 真也
心筋症とは、心筋細胞そのものが大きくなったり変質したりして、心臓の壁が厚くなったり、逆に薄く伸びてしまい、心臓の機能に異常を来してしまう病気のことです。その多くは原因不明です。
心筋症はその形態や機能異常の特徴から、肥大型(ひだいがた)心筋症、拡張型(かくちょうがた)心筋症、
拘束型心筋症は心筋の内側の心内膜が厚くなり、心筋が拘束されたようになって広がりにくくなる病気です。
不整脈原性右室心筋症は右室全体のびまん性拡張と収縮低下を来す心筋症です。
これら以外にも、
心筋症は症状が出にくく、症状が出た時は病状がすでに進んでいる場合が多いので、病気を早く発見するためには検診が重要です。
肥大型心筋症の場合には、聴診や心電図検査で病気の有無がわかります。心臓超音波検査を受ければ病気の状態もよくわかります。拡張型心筋症の場合は、心臓超音波検査や心臓カテーテル検査が必要になります。
心筋症は原因不明のケースがほとんどなので、病状が進まないようにするための食事指導、症状を抑えるための薬物療法が主に行われます。どのタイプの心筋症であるかは関係なく、患者さんは、激しい運動や仕事を避け、精神的ストレスがかからないように注意します。
前嶋 康浩
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
心筋に肥大、変性、壊死(えし)、線維化などの変化がおこり、機能障害を発現する疾患群を総称する。原因の明らかでない原発性心筋症と、明らかな基礎疾患に続発して発症する続発性心筋症の2群に大別される。ただし、先天性心疾患、肺性心、心臓弁膜症、高血圧性心疾患、虚血性心疾患および特異的炎症性疾患により生じた心筋疾患は、ここでいう心筋症には含めない。
[井上通敏]
特発性心筋症(肥大型心筋症とうっ血型心筋症)をはじめ、心内膜弾性線維症、心内膜心筋線維症、アルコール性心筋症、産褥(さんじょく)性心筋症などがある。一般に心筋症では肥大型心筋症など一部を除いてうっ血性心不全症状を呈することが多く、その場合は強心剤、利尿剤などによる治療が行われる。アルコール性では断酒が有効である。予後は、うっ血型心筋症では不良であり、産褥性心筋症では多くが回復するものの、3分の1に心電図異常や心肥大などの後遺症を残す。
[井上通敏]
多様な疾患がその原因として知られているが、おもなものとしては心筋炎をはじめ、神経・筋疾患のフリードライヒ病(運動失調症の一つ)や進行性筋ジストロフィー、膠原(こうげん)病の強皮症、皮膚筋炎、全身性エリテマトーデス、代謝性疾患のアミロイドーシス、粘液水腫(すいしゅ)、甲状腺(せん)機能亢進(こうしん)症、糖原病、ハーラー症候群などのほか、尿毒症、サルコイドーシス、脚気(かっけ)、心臓腫瘍(しゅよう)、中毒などによるものがある。原疾患の治療が重要であり、脚気によるものにはビタミンB1の大量投与が奏効する。予後は原疾患によるが、進行性筋ジストロフィーやサルコイドーシスなど一部の疾患では、その死因として心筋障害による心不全など、心臓の病変が高頻度に認められる。
[井上通敏]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新