《般若心経》を読誦する法会。日本では奈良時代以降,天災地異,飢饉疫疾がおきると,攘災招福のため《大般若経》《金剛般若経》などが宮中や諸大寺で読誦され,護国の法要として重視された。日本における般若経典受容の一形態を示すものであるが,《般若心経》もまた平安時代以降攘災招福のため読誦された。《般若心経》は小部な経典ではあるが効験は著しいと考えられ,とくに〈疾病之妙薬〉として,その写経読誦の功徳が期待された。1540年(天文9)疫病が流行したとき,後奈良天皇はみずから《般若心経》を書写し,僧に供養させている。また後奈良天皇は誕生日に《般若心経》千巻を女官に読ませているが,延命長寿を祈ってのことであり,江戸時代にも天皇の誕生日にこの経典を読誦するのが毎年の例となっていた。
執筆者:伊藤 唯真
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報