内科学 第10版 「心血管性失神」の解説
心血管性失神(失神)
a.反射性失神
反射性失神(神経調節性失神)は基礎疾患を認めない心血管性の失神の総称で,発作の誘発条件により血管迷走神経性失神(vasovagal syncope),頸動脈洞失神(carotid sinus syncope),状況失神(situation syncope)に分類される(荒木,2002).血管迷走神経性失神は最も多くみられる失神で,疼痛,疲労,不安などの不快な刺激や精神的興奮・緊張などが誘因となり(荒木,2002),長時間の起立などで誘発されやすい.しかし,血管迷走神経性失神は起立後20~30分後に誘発されることが多く,起立直後に血圧が低下する起立性低血圧とは異なっている.
一方,頸動脈洞失神は高齢男性で多くみられ,洋服やネクタイで首を圧迫したときや,頸部を伸展させ頸動脈洞を圧迫したときなどに誘発される.
状況失神には,排尿,食後,くしゃみ,嚥下,咳,排便,潜水,眼球圧迫,運動など(荒木,2002)にて誘発される失神や舌咽神経痛に伴う失神などが含まれる.排尿失神は立位で排尿中あるいは排尿直後に起こる失神で,男性に多く,疲労時,睡眠不足時,飲酒時などに起こりやすい(中里ら,1994).
b.起立性低血圧による失神
起立性低血圧に伴ってみられる失神は,起立直後に全身血圧の低下が生じ,二次的に脳灌流圧が低下するために脳血流量が減少し,失神がみられると考えられる.また,起立性低血圧を起こす原因となった自律神経障害が脳循環の自動調節能の障害を起こしている可能性もあり,脳灌流圧低下と自動調節能障害がともに関与し,その結果,失神をきたすと考えられる.
c.心原性失神
大動脈弁狭窄症など左心室拍出障害をきたす状態や心筋梗塞などによる心筋収縮障害による場合,および徐脈性不整脈による心拍出障害などによる場合がある(中里ら,1994).特に,Adams-Stokes発作を伴う房室ブロックや洞不全症候群の際に失神がときどきみられる.[荒木信夫]
■文献
荒木信夫:失神発作.医学のあゆみ,200: 1169-1170, 2002.
水牧功一:神経調節性失神.Brain Medical, 24: 183-190, 2012.
中里良彦,他:失神発作.NanoGIGA, 3: 260-263, 1994.
田村直俊,他:失神.Clinical Neuroscience, 13: 234-235, 1995.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報