消化し吸収した食物の残りを肛門(こうもん)より体外に排泄(はいせつ)することをいう。普通、糞便(ふんべん)はS状結腸にあり、直腸には存在しない。S状結腸の内容物は、大腸におこる総蠕動(ぜんどう)によって直腸に送られるが、直腸内圧が20~50ミリメートル水銀柱以上にあがると直腸壁が刺激され、その興奮は骨盤神経を介して脊髄(せきずい)から大脳へと伝えられ便意がおこる。直腸の輪走筋は肛門部でよく発達し、内肛門括約(かつやく)筋をつくっている(神経支配は骨盤神経と下腹神経による)。また、内肛門括約筋の外側には横紋筋からなる外肛門括約筋があり、肛門を堅く閉じている(神経支配は陰部神経による)。排便は、脊髄(仙髄)にある排便中枢(肛門脊髄中枢)の反射によっておこるが、通常では大脳からの抑制が働いているため、排便も抑制されることとなる。しかし、脊髄の損傷によって大脳から抑制が排便中枢に届かなくなったり、脳出血などのため、大脳の機能が障害を受けると、局所反射的に排便がおこる(大便失禁という)。また乳児では、大脳が十分に発達していないため、少量ずつ排便することとなる。正常の場合、大脳からの抑制がなくなると直腸に蠕動がおこり、内外肛門括約筋が弛緩(しかん)して排便が行われるが、この動作を助けるために腹圧の亢進(こうしん)、声門を閉じて息を詰めるなどの現象(いきみ)がみられる。なお、排便の際には、肛門挙筋が収縮して直腸の脱出を防いでいる。
[市河三太]
…個人差が大きく,腸内細菌叢や食事内容によって左右される。
[排便defecation]
大便の貯留によって直腸壁が伸展されると便意を催す。同時に,副交感神経(骨盤神経)支配の内肛門括約筋は反射的に弛緩する。…
※「排便」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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