大動脈弁狭窄症(読み)ダイドウミャクベンキョウサクショウ

家庭医学館の解説

だいどうみゃくべんきょうさくしょう【大動脈弁狭窄症 Aortic Stenosis】

[どんな病気か]
 大動脈弁が十分に開かない心臓弁膜症(しんぞうべんまくしょう)です。
 この病気は、先天的障害、あるいはリウマチ熱が原因になりますが、中高齢者では動脈硬化によるものがほとんどで、今後、日本でも増加するおそれがあります。
[症状]
 この病気も、重症になるまで症状が現われにくい疾患です。呼吸困難や狭心症(きょうしんしょう)、心不全(しんふぜん)をおこしますが、そうした症状や病状になると、数年以内に突然死するおそれがありますので、早期に手術を受ける必要があります。
[治療]
 手術法は人工弁(じんこうべん)による弁置換術(べんちかんじゅつ)を行ないます。カテーテルによる切開術は効果が期待しにくく、通常は行なわれません。
 たとえ手術を受けても、著しい心肥大(しんひだい)が残存します。そのため、激しい運動は避けることが望ましく、主治医と相談してください。

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内科学 第10版の解説

大動脈弁狭窄症(後天性弁膜症)

概念
 
大動脈弁狭窄症は大動脈弁自体が種々の原因により開放制限を受けることで,左心室から大動脈への血液の駆出が障害される疾患である.
病因
 大動脈弁狭窄症の病因は,先天性・後天性に区別される.先天性は,二尖弁の硬化や石灰化に伴うものが多く,一尖弁なども存在する.性比は3:1で男性に多い.外科的処置を行われた70歳以下の症例の50%は二尖弁由来との報告もある. 後天性は,リウマチ性と動脈硬化性に大別される.リウマチ性のものはリウマチ熱の罹患後,徐々に弁変性が進行する.僧帽弁も同時に変性することが多い.わが国では,リウマチ熱の減少により,減少傾向にある.
 動脈硬化性によるものは,高齢化に伴って,近年急激に増加している.弁の石灰化にとどまらず,大動脈やそのほかの主たる動脈も石灰化していることが多い.
病理
 先天性の中でも二尖弁は血流が弁通過時に生じる乱流により,弁尖が変性する.慢性的な血流異常に続き,弁尖の石灰化が生じるが,交連部の癒合はない.また,重要な所見に弁腹の線状組織である縫線(raphe)が存在することがある. リウマチ性は,交連部の癒合と肥厚が特徴であり病期の進行とともに石灰化を呈し,可動制限を認めるようになる. 動脈硬化性は弁尖の硬化,石灰化が主体であり,リウマチ性に比べて交連部の癒合は少ないとされる.リウマチ性と異なり,弁尖変性は弁輪部より始まって徐々に弁自由端部へと広がり石灰化が波及する.
病態
 大動脈弁の開放制限により,左室に収縮期から拡張末期にわたって左室内圧負荷が継続するため,求心性(concentric)に左室肥大を起こし,末期は相対的な心筋虚血や心筋の変性から左室壁運動の低下,左室の拡大を生じる.有意な血行動態の変化は正常の弁口面積(3.0~4.0 cm2)の1/4以下で生じることから,0.75~1.0 cm2以下を重症とするものが多い.そのほか,弁通過最大血流速度が4.0 m/秒をこえる症例も重症の基準とされている.
臨床症状
 胸痛,失神,心不全が古典的な自覚症状であるが,症状が出現するのは通常,弁口面積が1 cm2以下になった場合であることから,長期間は無症状で経過する.また左室の拡張能の障害から,労作時の軽度の息切れを呈することもある.
 胸痛はおもに左室肥大による酸素需要の増大,冠血流予備能の低下,大動脈圧の低下から生じる冠灌流圧の低下による酸素需要と供給の不均衡による心筋虚血が原因と考えられている.
 失神は心拍出量の低下や,労作時などの左室内圧の急激な上昇による圧受容体反射の結果として生じる末梢血管の拡張や徐脈による脳虚血が原因である.
 心不全は慢性の左室圧負荷による代償性肥大から心筋の疲弊を生じ,拡張および収縮不全を呈して顕性化する.
身体所見
1)触診所見:
触診時に大切なのは心尖拍動と頸動脈の所見である.心尖拍動は抬起性(sustained pattern)が特徴的であり,最強点は心拡大とともに左下方へ移動する.また左室拡張末期圧が上昇すれば,二峰性(double apical impulse)として心房波を触知する.頸動脈拍動で立ち上がりが遅く,ピーク付近での細かい振戦(shudder)を触知すれば,本症を強く疑う.
2)聴診所見:
収縮中期に最大となる駆出性収縮期雑音が本症に最も重要な所見である.雑音は比較的高調であるが,低音成分も有し荒々しくも聴こえ,頸部へ放散する.胸骨右縁第2肋間を最強点とすることが多いが,前胸部であればほかの部位でも最強点となりうる.Ⅱ音は中等度以上で単一となり,重症例では,左室の駆出時間が延長するために,大動脈成分が肺動脈成分に遅れ,奇異性分裂を示す.また,Ⅱ音の減弱や雑音のピークが収縮期後半に来ていることも重症の目安である.Ⅳ音も多くの症例で聴取するが心不全を起こした重症例では減弱し,Ⅲ音を聴取するようになる(図5-10-16).
検査成績
1)心電図:
左室の圧負荷を反映し,①胸部誘導での左側胸部高電位,②ST低下と陰性T波を認める左室ストレインパターン(strain pattern)を呈する.左房負荷を認める際は,僧帽P波(V1
の深い陰性部を有するP波)を認める.
2)胸部X線写真:
末期までは,心胸郭比は正常であることが多く,左室の求心性肥大のため,左第4弓は丸みを帯びる.上行大動脈は狭窄後拡張(poststenotic dilatation)のため,拡大する.変性の強い大動脈弁では,その石灰化を認めることがある.
3)心エコー図:
弁変性の観察や重症度評価には,繰り返し施行できるため必須の検査である.弁変性の評価はMモードからは大動脈弁の肥厚や開放制限を観察できる.またエコー装置の進歩から,Bモードを利用すると二次元画像でも病変の観察は可能である.所見として大動脈弁の癒合や石灰化,弁尖のドーミングのほか,左室圧負荷の間接所見として求心性左室肥大を認める(図5-10-17). 重症度は弁口面積で評価するのが臨床経過に合致して有用である.このほか左室大動脈圧較差も併用される.Bモードからプラニメトリー法で直接的に弁口面積を求めたり,連続ドプラ法から圧較差(ΔP=4Vmax2;ΔP:圧較差,Vmax:大動脈弁通過最大血流速度)や大動脈弁通過血流速度を求めたり(図5-10-18),パルスドプラ法を追加して左室流出血流量を計測し,連続の式から弁口面積(AVA=Q/VTILVOT;AVA:大動脈弁口面積,Q:左室流出血流量,VTILVOT:左室流出路通過血流速度時間積分値)を算出する方法がある.
 大動脈弁狭窄の重症度は,有意な血行動態の変化が正常の弁口面積の1/4から生じることから,1.5 cm2以上で軽度,1.0~1.5 cm2で中等度,1.0 cm2以下で重症と判定され,平均圧較差では40 mmHg以上を重症としている.
4)心臓カテーテル検査:
カテーテルの左室から大動脈へ引き抜くことで得られる圧記録から,左室大動脈圧較差を求める.この方法ではpeak to peakの圧較差で50 mmHg以上を高度とする.Swan-Ganzカテーテルを用いて測定した心拍出量を用いて,Gorlinの式から,大動脈弁口面積を算出する.弁口面積が0.6 cm2以下であればカテーテルを挿入することで狭窄度が悪化するため,心エコー図での評価を優先してもよい.ただし,胸痛を有する症例は冠動脈造影により,冠動脈疾患合併の鑑別が可能である.
治療
1)内科的療法:
日常診療では,感染性心内膜炎の予防が重要となり,歯科治療や外科的処置を行う際には,抗生物質の予防投与を行う. 心不全を起こした際は,外科的な処置まで,塩分制限のほか,利尿薬,ジギタリス製剤を慎重に使用する(血管拡張作用のある薬剤は原則禁忌である).
2)外科的療法:
胸痛,失神,心不全などの症状を有する場合は速やかに外科的処置,すなわち大動脈弁置換術を行う.最近は,バルーンカテーテルにより,非侵襲的に狭窄を拡大するとともに弁置換を行う術式が開発され(経カテーテル的大動脈弁置換術:transcatheter aortic valve implantation),特に高齢者に有用である. 無症状の場合は,心エコー図検査などを1~2回/年行い,慎重な管理下で症状の出現の際に速やかな処置を行う.
経過・予後
 胸痛,失神,心不全の症状が出現すると,生命予後はそれぞれ5,3,2年以内とされ外科的な治療を考慮しなければならない.[兵頭永一・吉川純一]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

六訂版 家庭医学大全科の解説

大動脈弁狭窄症
だいどうみゃくべんきょうさくしょう
Aortic valve stenosis
(循環器の病気)

どんな病気か

 大動脈弁に狭窄が起こると、左心室から大動脈に血液を十分に押し出せなくなってしまいます。また、左心室の内圧が上昇し、これに対応するため左心室の心筋(心臓の筋肉)が肥大します。心腔はあまり拡張しません(求心性肥大)。

原因は何か

 原因としては、先天性やリウマチ性のほか、最近では高齢者における弁の変性や石灰化によるものが増えてきています。

症状の現れ方

 成人の場合の大動脈弁狭窄は徐々に進行するため、長期間無症状の時期があります。多くは50代、60代になってから症状が現れます。大動脈弁狭窄症では、他の弁膜症とはやや異なった症状があるのが特徴的です。

 そのひとつは狭心痛(きょうしんつう)です。狭心痛とは、運動時や階段を昇った時などに現れる胸痛発作です。冠動脈硬化症による狭心症と症状は同じですが、大動脈弁狭窄症では冠動脈狭窄がなくても強い左室肥大により、狭心痛が現れます。また、高齢者では冠動脈の病変を合併していることもしばしばあります。

 2つめは失神です。多くの場合、体を動かす時に心拍出量が低下して、脳血流が減ってしまうために起こります。安静時に現れる失神は、一過性の心室細動(しんしつさいどう)心房細動(しんぼうさいどう)房室(ぼうしつ)ブロックなどの不整脈が原因になる場合があります。

 3つめは他の弁膜症と同様、体を動かした時の息切れや夜間発作性呼吸困難といった左心不全の症状です。

 大動脈弁狭窄症では、このような狭心痛、失神、心不全症状が現れ、そのままにしておくと予後不良になります。

 一般的には、生命予後は狭心痛が現れると5年、失神が現れると3年、心不全が現れると最も悪く、生命予後は2年といわれています。また、何らかの症状のある大動脈弁狭窄症では突然死の危険性があります。

検査と診断

 聴診(心音図)、心電図、胸部X線撮影の検査を行います。心エコー(超音波)検査(とくにドプラー検査)は最も重要な検査で、正確な診断だけではなく重症度判定(弁口面積が1.0㎠以下または血流速度が4.0m/秒以上が重症)や左心室の機能の評価を行うことができます。経食道心エコー検査を行えば、さらに詳しい弁の評価が可能です。心臓カテーテル検査が必要になることもあります。

 また、狭心痛がある場合や手術前には、冠動脈造影検査で冠動脈狭窄の有無を評価する必要があります。

治療の方法

 中等症以下の場合には、定期的な心エコー検査と感染性心内膜炎の予防で十分ですが、狭窄は徐々に進行するので注意が必要です。重症の弁狭窄であっても無症状で心機能が正常な場合は、半年から1年ごとの定期的な心エコー検査で経過観察することになります。ただし、激しい運動や労働は避けるべきです。

 重症の弁狭窄で大動脈弁狭窄症による症状があったり、心機能が低下してきている場合には、薬物治療にこだわらずに外科手術がすすめられます。手術は、人工弁による置換術(ちかんじゅつ)です。最近は、高齢者の大動脈弁狭窄症が増えてきています。高齢者の場合、手術するかどうかや、手術の時期の決定は必ずしも容易ではありません。

橋本 裕二

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

世界大百科事典内の大動脈弁狭窄症の言及

【心臓弁膜症】より

…通常,85%は予後良好で外科的手術は必要としない。(4)大動脈弁狭窄症 後天性のものではリウマチによるものが多いが,まれに老人の弁石灰化に伴って起こることがある。先天性のものでは本来3枚の弁で構成されている大動脈弁が2弁になっていることが多いが,ときに1弁のこともある。…

※「大動脈弁狭窄症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報

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