内科学 第10版 「急性GVHD」の解説
急性GVHD(急性移植片対宿主病)(移植後合併症の予防と治療)
急性GVHDはグラフト内の免疫細胞によるレシピエントに対する免疫反応であり,皮膚,肝臓,消化管を標的とした炎症により皮疹,黄疸,下痢などを特徴とする症候群である.GVHD発症の必要条件としてドナー由来の成熟T細胞の存在,レシピエントが免疫抑制状態にあること,そしてドナーには存在しないMHC(major histocompatibility complex,主要組織適合性複合体)またはMiHA(minor histocompatibility antigen,マイナー組織適合性抗原)などのアロ抗原の存在,があげられる.急性GVHDの発症は,前処置などで傷害を受けた各組織から炎症性液性因子などが全身に回り,レシピエントの抗原提示細胞や各組織上のアロ抗原の発現が高まることにより反応性ドナーT細胞が活性化する.活性化したTリンパ球から細胞や液性因子によるネットワークを介して細胞傷害性Tリンパ球やNK細胞を中心とした細胞成分や,炎症性サイトカインなどの液性因子を介して組織障害が引き起こされる(図14-8-7).重症度分類は,各標的臓器のステージ分類による(表14-8-3,14-8-4).移植後100日以内に発症する古典的急性GVHDに加え,移植法の多様化およびリンパ球輸注などの免疫賦活法が行われるようになり,100日以降に発症する場合も非典型的急性GVHDとして分類される.
骨髄あるいは末梢血幹細胞移植では,急性GVHDの予防法はカルシニューリン阻害薬(シクロスポリンあるいはタクロリムス)とメトトレキサートの併用が標準となっている.GVHDが発症し,重症度Ⅱ度以上に進展した場合には予防薬剤投与を継続しながら,一次治療としてステロイド(プレドニゾロンあるいはメチルプレドニゾロンで1~2 mg/kg)の投与が行われる.治療開始後3日目以降に悪化,あるいは5日目の時点で改善が認められない場合は,二次治療への移行が考慮されるが,ステロイド増量,抗ヒト胸腺細胞免疫グロブリン(ATG)以外は保険適応外である.アレムツズマブ(抗CD52モノクローナル抗体),ミコフェノール酸モフェチル(MMF),ヒト間葉系幹細胞(MSC)などはいずれも臨床開発あるいは経験的使用報告の段階である.消化管GVHDに対するベクロメタゾン腸溶性製剤,インフリキシマブ(抗TNF抗体)に関する少数例の治療報告もなされているが,ステロイド抵抗性の急性GVHDに対する二次治療の開発は今後の課題として残されている.[高橋 聡]
■文献
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出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報