移植片対宿主反応病(読み)いしょくへんたいしゅくしゅはんのうびょう

百科事典マイペディア 「移植片対宿主反応病」の意味・わかりやすい解説

移植片対宿主反応病【いしょくへんたいしゅくしゅはんのうびょう】

臓器移植のときに,ドナー(臓器提供者)の移植片や血液に含まれるリンパ球が,レシピエント(宿主=臓器提供を受ける人)の身体を攻撃する拒絶反応のこと。GVHDともいう。輸血も臓器移植の一つで,この後に起こるGVHDを特に〈輸血後GVHD〉という。 ふつうの拒絶反応は,宿主のリンパ球がドナーの移植片を異物とみなして,これを攻撃する免疫反応によって起きる。ところが,大手術,癌(がん),重度の内臓疾患,制癌薬や免疫抑制剤の投与後,新生児未熟児,高齢などの原因によって,宿主が免疫不全状態になると,宿主は移植片に対して免疫反応を起こせない。そこで,移植片に含まれるリンパ球が宿主を異物とみなして,通常とは逆の拒絶反応を起こす。これがGVHDである。なお,輸血後GVHDは,免疫不全状態ではなくても,大量の輸血や近親者からの輸血によって発症することがある。 症状が出てくるのは,ドナーの移植片から入ったリンパ球が十分に増殖してからなので,GVHDとは分かりにくい場合もある。臓器移植後のGVHDは,急性型では2〜4週間後に皮膚肝臓消化器官に障害を起こし,慢性型は移植後100日前後に全身性の障害が出てくる。 輸血後GVHDは,輸血後1〜4週間後に皮膚が赤くはれ,発熱,下痢,肝機能障害などが起こる。これに続いて,骨髄での造血を抑制され,最終的には敗血症を併発してほとんどが死亡する。死亡率は95%以上で,有効な治療法は確立されていない。それだけに,予防することが重要である。 予防対策としては,臓器移植であれば組織適合性の一致するドナーを選び,各種の免疫抑制剤を投与する。輸血後GVHDの場合は,リンパ球は放射線に弱いので,輸血する血液を輸血前に放射線照射しておくことで,ほぼ完全に予防できる。 日本赤十字社では,1994年2月から病院側の要望があれば,輸血用の血液を100%放射線照射できるようになったが,1993〜1996年でも輸血後GVHDで29人が死亡している。1996年4月,厚生省は全国5万の医療機関に緊急警告を発したが,その後も死亡例は報告され,病院や日本赤十字社を相手取った医療訴訟も起きている。 こうした状況から,ここ数年では輸血を行わない手術(無輸血手術)や,あらかじめ患者本人の血液を採取しておいて,手術時の輸血に使う自己血輸血も増えている。→免疫不全症組織適合抗原
→関連項目生体小腸移植

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