『悪魔の詩』事件(読み)あくまのうたじけん

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「『悪魔の詩』事件」の意味・わかりやすい解説

『悪魔の詩』事件
あくまのうたじけん

インド出身のイギリス国籍作家が執筆した小説が,イスラムを冒涜したとして世界的に物議をかもした事件。『真夜中の子供たち』(1981,ブッカー賞受賞)などでイギリス文壇の有名作家となったサルマン・ラシュディは 1988年,預言者ムハンマドを思わせる人物を中心に小説『悪魔の詩』The Satanic Versesを著したが,それがムハンマドを冒涜したものとして世界各地のイスラム教徒から激しい怒りを買った。1989年2月,イランホメイニ師がラシュディの処刑を呼びかけたことから大きな国際問題となり,一時イギリスとイランの大使召還にまで発展した。ホメイニ師の死後処刑宣告は取り下げられず,テロを恐れたラシュディは姿を隠した。欧米諸国は死刑宣告撤廃を求めてイランに圧力をかけていたが,これに対し 1995年イランの司法長官が,ホメイニ師の死刑宣告は不変だが国家としてのテロ行為は行なわないと明言した。同書の邦訳者,筑波大学の五十嵐一助教授が 1991年7月,何者かに殺害されている。

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百科事典マイペディア 「『悪魔の詩』事件」の意味・わかりやすい解説

《悪魔の詩》事件【あくまのうたじけん】

イスラム教徒の両親をもつインド生れのイギリスの作家サルマン・ラシュディの幻想小説《悪魔の詩》をめぐる事件。1989年2月,イランの最高指導者ホメイニーは,同作品がイスラムを冒涜したとしてラシュディに死刑を宣告。これに対して欧米諸国は,人権言論の自由,国家主権の侵害として強く反発した。しかし翻訳者や出版関係者が殺害される事件が発生し,イランは国際的批判を浴び孤立化を深めた。死刑宣告は1989年6月のホメイニー死去後も有効とされていたが,イランは1995年5月,宣告は不変であるが国家として暗殺部隊を送らないとの姿勢を明確にし,国際関係は改善に動きだした。日本語版《悪魔の詩》の訳者殺害事件との関係は不明。

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