憲法変遷(読み)けんぽうへんせん(その他表記)Verfassungswandlung[ドイツ]

改訂新版 世界大百科事典 「憲法変遷」の意味・わかりやすい解説

憲法変遷 (けんぽうへんせん)
Verfassungswandlung[ドイツ]

(1)制定憲法の運用の変化を意味する場合と,(2)制定憲法に反する実例(法律,慣行)が存在するとき,一定の要件(当該実例が長期間通用し,かつその実例を承認する国民の法意識が確立していること)が満たされた場合には,違憲の実例が憲法規範の性格を獲得し,制定憲法を改廃するということを意味する場合,の二つの用法がある。憲法変遷という言葉を最初に使用したP.ラーバント(19世紀末の帝制ドイツの公法学者)のもとでは,この言葉はもっぱら(1)の意味で用いられ,違憲の実例が制定憲法を改廃するかどうかという(2)の問題は,当時のドイツでは憲法慣習法の問題として論じられていた。しかし,その後,この言葉は,変遷現象の体系化を試みたイェリネックのもとで憲法慣習法論と部分的に結合し,かような変遷論が美濃部達吉により日本に紹介されたこともあって,今日の日本では,この言葉はもっぱら(2)の意味で用いられている。そしてこのような用法のもとで,自衛隊を容認する世論増大を背景にして,憲法9条の変遷が完了したかどうか(つまり,いっさいの戦争といっさいの戦力保持を禁止する9条にかわって,自衛戦争と自衛戦力を認める新たな不文の憲法規範=憲法慣習法が成立したかどうか)が,今日の憲法変遷をめぐる論議の最大の争点となっている。(2)の意味の憲法変遷の観念が法学上の観念として認められるかどうかは,結局のところ法の本質と憲法の内容の理解に依存する。この観念を認める説(今日の日本では多数説)は,現に通用しているという意味での実効性こそ法の本質的要素であり(社会学的効力論),このことはすべての憲法について妥当するという立場にたつ。しかし,ビスマルク憲法や明治憲法と異なって,人権保障のために法により国家権力を拘束することを核心とする立憲主義の理念に立脚して,憲法の最高法規性を明示し成文憲法主義を採用している日本国憲法のもとでは,憲法の本質的要素として成文性を軽視すべきではなく,また,かりに不文の憲法慣習法も認められるとしても,それは制定憲法に反しないかぎりで認められるというべきであろう。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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