改訂新版 世界大百科事典 「手書新聞」の意味・わかりやすい解説
手書新聞 (てがきしんぶん)
newsletter
手紙に世間話,政治・社会情報など,ニュースを書くことは〈手紙〉の発生とともに古いが,16世紀ヨーロッパの商業貿易のセンターとなるベネチア,ニュルンベルクなどに成立した,ニュースを手書きで複製して代金を払えばだれにでも販売した専門通信業者の商品をいう。活字で印刷された新聞と対比していわれる。当時ヨーロッパ有数の金融業者であったフッガー家は,各地の支店,通信業者から定期的に手紙でニュースを送らせていたが,この類(その集成をフッガー・ツァイトゥンゲンFugger Zeitungenと称する)も広義の手書新聞とみなしてよい。
印刷新聞の普及とともに当然自然消滅していくが,検閲がきびしく,首都から地方へのニュース伝達が悪いような場合には手書新聞が印刷新聞と並立して活況を呈する時期もあった。たとえば王政復古から18世紀初期までのイギリスでは,マッディマンJ.G.Muddiman,ドークスI.Dawksなど多くのジャーナリストが活字では禁止されている議会通信などを手書新聞で地方へ送っている。1716年まで発行されたドークスの新聞《Dawks's Letter》は,半面にニュースが印刷してあり,半面が白で,購読者がそれに手書きして送れる形式のものもあり,近代的な新聞への過渡期をあらわしている。
執筆者:香内 三郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報