ニュース(読み)にゅーす(英語表記)news

翻訳|news

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニュース」の意味・わかりやすい解説

ニュース
にゅーす
news

社会に生起する毎日のできごとや、その間の人や事物の消息。要約的には「時事に関する事項」(郵便法・郵便規則における、新聞の区分での表現)すべてを含む。しかし現実には、それらの事項のなかから、とくに多くの人々が関心をもったり、社会的に大きな影響力をもつと思われたりするものが選定され、新聞や放送を通じて情報として世間に提供されるのが通例で、それらをとらえてニュースと称する。ニュースは、コミュニケーションの歴史のなかでは証言伝言うわさなどを起源としており、できごとに由来する断片的性格をもつ。そうした点では、特定の利用目的や有用性が吟味され、それらを必要とするものに組織的かつ体系的に送達される情報=インフォメーションとは基本的に性格を異にする。

[桂 敬一]

ニュース・バリューの変化と速報性の追求

ニュースの情報としての価値=ニュース・バリューnews valueは、古くは珍しさに最大の力点が置かれ、「人間が犬をかめばニュースになる」という定義が有名である。しかし、社会の変化につれて、人々の国際的、政治的、経済的、文化的、さらには社会的関心のありようも変わり、情報欲求の内容も変化してくるのが現実であり、これに伴ってニュース・バリューの判断基準も変わらざるをえない。時代や人によって、あるときは戦争のことが、ある状況では生活上の情報が、それぞれ最大のニュースとなりうる。

 また、世界各国でのできごと、異なる社会階層間の利害などが、時代とともに相互関連性を増し、遠い世界のニュースでも身近な問題に結び付く情報として一般の人々から求められるようになった。このため、マス・メディアは、近代を通じてニュースの速報に重きを置く報道主義を追求、大規模産業として発展してきた。速報の追求過程では、新聞など印刷媒体はしだいにラジオ、テレビなどの電波媒体にスピードの点で追い抜かれ、新聞はまた新たに、確認・記録、判断、解釈、論評に重点を置く報道姿勢を強めるようになった。一方、テレビは、現に生起しつつあるできごとをリアルタイム(即時)で茶の間に送り込むことを可能とし、現在進行中の事件の光景そのものも、ニュースとなすにいたった。

[桂 敬一]

デジタル・メディアの登場とニュースのデータベース化

1990年代なかばから、マス・メディアがインターネットを利用し、これがしだいに有力なニュース媒体となりつつある。また、放送のデジタル化の進展に伴い、受け手送り手との間に個別化したインタラクティブ双方向)なコミュニケーションが成立したのに伴って、ニュースは送り手が同一の内容を不特定多数に一方的に伝播(でんぱ)するだけのものではなくなり、受け手の注文に応じてそれぞれに異なる内容として送達される形態も備えるようになった。

 日本新聞協会の新聞整理研究会は1966年(昭和41)、現代のニュースの尺度として、(1)新奇性、(2)人間性、(3)普遍性、(4)社会性、(5)影響性、(6)記録性、(7)国際性、(8)地域性の8項目を試みに掲げている。おそらく、これら8項目すべてに妥当し、報道の価値ありとされる「時事に関する事項」は、いつの世においてもニュースたりうるだろう。しかし、IT革命(情報技術革命)の進展に伴い、デジタル化されたメディアがインタラクティブ・コミュニケーションの領域を拡大するのにつれて、ニュースが、純粋に知的な好奇心、あるいは利益動機のない関心にこたえる情報と、特定の情報需要者向けの有用情報とに明確に区別されるようになり、メディアの産業システムのなかでは、とくに後者に重要な経済価値がみいだされるようになる可能性が大きい。具体的には、各所各種のできごと・ニュースの有機的関連性が強まるなかで、メディアがニュースを選定、送出を行ったとたん、そのニュースは一定の事項、利害にかかわる系統的な情報となる傾向が強まっている。

 そうした情勢の変化のなかで、各メディアは、ニュース処理をコンピュータ化してデータベースを構築、蓄積情報をユーザー(利用者)の注文に応じて各種のデジタル・メディアに出力する方法で多角的な情報ベンダー(有用な商品価値をもつ情報の販売事業者)となる傾向を強めている。ニュースはしだいに、情報としての実用性で価値が計られ、発生するやただちにインフォメーション化され、情報流通のマーケット・メカニズムのなかに投げ込まれるものとなりつつある。このような状況は、実利にはかならずしも結び付かないが公共的世界の運命を左右する重要ニュースを、疎外するような環境を現出させるおそれを伴っている。

[桂 敬一]

『杉村楚人冠著『最近新聞紙学』復刻版(1970・中央大学出版部)』『新聞整理研究会編『新聞整理の研究』(1966・日本新聞協会)』『稲葉三千男・新井直之・桂敬一編『新聞学』第3版(1997・日本評論社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例