日本大百科全書(ニッポニカ) 「拡散風洞」の意味・わかりやすい解説
拡散風洞
かくさんふうどう
大気拡散を実験的に研究するために使用する風洞をいう。風洞の中に地形の模型を置き、汚染源から煙を排出して、拡散の状況を視認したり、観測点を適当に配置して濃度を測定し、濃度分布やその時間的変化を調べることができる。このとき、風の分布やその時間的変化も測定するので、汚染現象と風との関係を実験的に研究することができる。また、風洞を用いて、理論的成果を実験的に検証することもできる。風洞実験では、地形の模型や汚染源の物理的特性に対する風洞内の風の状況が、自然の場合と同じであるようにする必要がある。これを相似律(相似法則)という。しかし、すべての条件を満足させるように相似律を確立することは非常に困難である。したがって、実験を行う重点を明確にし、少なくとも、これらについて適当な相似律を適用するのが普通である。とくに大気の安定度、すなわち気温の鉛直分布が大気拡散に大きな影響を与えるので、拡散風洞には温度または密度の鉛直分布、すなわち成層を与える装置が備えられている。
大気拡散を研究するおもな方法としては、現地における拡散実験、拡散風洞による実験、電子計算機を用いた数値シミュレーションによる実験(数値実験)が慣用されている。これらの方法にはそれぞれ特徴があり、一長一短である。したがって、一つの方法のみですべてを解決することはできない。そのため、研究目的に応じ、これらの方法を適当に組み合わせて併用し、もっとも重点が置かれている事柄を端的に明らかにすることが望ましい。
[股野宏志]
『横山長之著『煙――大気中における振る舞と姿』(1997・白亜書房)』