日本大百科全書(ニッポニカ) 「数値実験」の意味・わかりやすい解説
数値実験
すうちじっけん
気象学における数値実験とは、実際の大気の状態の変化を支配する物理法則を、数値的に明らかにする手段をいう。
気象学の研究は大気(自然)が対象であるため、研究の目的に応じて、特定の大気の状態を任意に再現したり、必要な状態を制御することは不可能である。したがって、気象学における実験的研究といえば、もっぱら、模型実験などいわゆる室内実験をさすのが一般的であった。しかし、電子計算機の発達とその技術の普及により、これらが気象学の研究にも広く利用されるようになった。そして、大気に関していろいろな実際的、現実的また架空的な条件を与えて、大気を支配する力学方程式の数値解を求めることにより、大気の性状を力学的に解明することができるようになり、研究の目的に応じての状態の再現・制御などの実験的効果を期待することが可能になった。この新しい実験的方法は、従来の実験的方法(室内実験)に勝るとも劣らない重要な位置を占めるに至っている。
数値解が初期状態、各種パラメーター、係数などの値によってどう変わるか、また、係数などの値をいろいろと変えることによって結果がどう変わるかを調べることから「実験」と称されて、室内実験と対比されるが、数値または計算シミュレーション(模擬の意)と同義に用いられることがある。しかし、数値シミュレーションはより実際に近い状態を再現しようとするが、数値実験はより実験的な意図をもって架空的な状態をも取り扱うので、厳密には両者は区別される。台風の発達、境界層内の変動、大気と海洋の関係、山岳の影響などの研究には数値実験が重用されている。
[股野宏志]