日本大百科全書(ニッポニカ) 「指標動物」の意味・わかりやすい解説
指標動物
しひょうどうぶつ
指標生物のうち動物のそれをいう。動物は一般に移動力が大きいため、陸上動物の場合、指標種とはなりにくいが、水圏では、しばしば海流、水塊や汚濁の指標として用いられている。
海洋を構成している海流系や水塊には、それぞれに固有な指標動物が生息しており、その動物の出現により、海流や水塊の及ぶ範囲や動きを知ることができる。冷水性の親潮の指標動物としては、浮遊性甲殻類のカラヌスやヤムシ類のキタヤムシがある。これらを確認することにより、親潮系水の勢力範囲を知ることができる。また、これらの動物は、黒潮勢力下の数百メートルの深層でも、ときに採集される。これは、比重の大きい親潮が黒潮の下に潜り込んで、南に張り出していることを示唆するものである。
沿岸水と外洋水の間でも、それぞれに固有の指標プランクトンを調べることにより、水塊の分布状態を知ることが可能である。
富栄養湖は、夏には有機物の分解のため溶存酸素が減少し、無酸素に近い状態となり、湖底にはキロノマス属ユスリカの幼生が多い。一方、貧栄養湖では無酸素層はできず、タニタルサス属ユスリカの幼生が生息する。すなわち、両者はそれぞれ富栄養湖、貧栄養湖の指標種となっている。
沿岸、内湾域の環境汚濁を示す場合には、風や流れなどによって移動しやすいプランクトンよりは、移動力の小さいベントス(底生動物)が、より現場の状態を反映するものとして指標動物となりやすい。有機汚濁の結果、海底近くに貧酸素層が発達する海域での指標種として、多毛類のイトゴカイ、ヨツバネスピオがある。ただし、前者は低塩分を好むため、塩分濃度の高い海域での指標種とはなりにくい。二枚貝のシズクガイやチヨノハナガイは内湾底泥の普通種であるが、汚濁の進行とともに出現の比率が増加する。
[村野正昭]