親潮(読み)オヤシオ(その他表記)Oyashio

デジタル大辞泉 「親潮」の意味・読み・例文・類語

おや‐しお〔‐しほ〕【親潮】

ベーリング海に発し、千島列島北海道・本州の太平洋側を南下する寒流。夏は金華山沖で、冬は銚子沖で黒潮に接する。プランクトンに富み、流域は好漁場。千島海流
[類語]海流潮流暖流寒流渦潮潮目潮境黒潮日本海流対馬海流千島海流

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精選版 日本国語大辞典 「親潮」の意味・読み・例文・類語

おや‐しお‥しほ【親潮】

  1. 寒流の一つ。ベーリング海に源を発し、カムチャツカ東岸、千島列島を経て、夏は金華山沖、冬は銚子沖で黒潮と接する。水温は夏季でも摂氏七~八度。栄養塩、プランクトンに富み、緑色を帯び、透明度は小さい。サケ、カニ、タラなどを育成するところからの命名。千島海流。
    1. [初出の実例]「太平洋沿岸の〈略〉北半には寒帯海流(親潮)駛走し」(出典:日本風景論(1894)〈志賀重昂〉二)

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改訂新版 世界大百科事典 「親潮」の意味・わかりやすい解説

親潮 (おやしお)
Oyashio

千島海流Kuril Currentの通称。酸素や栄養塩に富み,魚類や海藻類をよく育てることから,親潮と名づけられた。北太平洋北部の亜寒帯環流における西岸流であり,千島列島の東から北海道南東岸沿いに流れ,さらに本州東岸を三陸沖まで南下している。北大西洋ラブラドル海流,南大西洋のフォークランド海流に対応している。

 親潮はベーリング海に源流があり,カムチャツカ半島,千島列島沖を通過する際,オホーツク海の海水も混合すると考えられる。したがって親潮を構成するのは低塩分,低温の亜寒帯水である。例えば北緯42°~45°付近で水深200~500mにある海水の塩分は33.7~34.0‰であり,これは黒潮の34.5~35.0‰に比べると低い。また水温も4~5℃で,同じ深さの黒潮が12~18℃であるからかなりの差がある。表層においても夏で19℃,冬で1℃程度しかない。このため親潮は寒流といわれる。

 北海道沿岸における親潮の流量は毎秒約1500万t(15×106m3/s)と見積もられ,これは黒潮の流量の1/3以下である。親潮は通常最も岸寄りに親潮沿岸流,その沖合に親潮本流,さらにその沖に親潮反流という構造を成しているが,親潮本流の流速は平均1ノット程度と推算されており,黒潮に比して弱い流れであるといえる。

 親潮は一般に夏季より冬季に強まるとされているが,この親潮の動向は北海道や東北地方の気候を定める要因の一つとなっている。例えば夏季においても親潮が弱まらない年には,東北地方の農作物に冷害が生じることが多い。この関係はすでに1902年と05年の凶作のときに海水の異常低温が指摘されている。31年と34年の冷害の後,夏季における東北地方の水温の観測から冷害の予報を行うようになった。
執筆者:

親潮は栄養塩に富んでいる。夏季には表層水の栄養塩は植物プランクトンに利用されて黒潮域の100m層のそれに近いが,水温躍層直下の20~50m層ではリン酸態リン1~2μmol/l(=μg atoms/l),ケイ酸態ケイ素数十μmol/l硝酸態窒素約20μmol/l以下,溶存酸素6ml/l以上であり,栄養塩は黒潮系水より1桁多い。そのため夏季には有光層内のクロロフィル含量は0.8~1.2mg/m3にもなり,プランクトンも多く濁っている。透明度は15m以下,水色も4~7と緑色から黄緑色を呈する。

 生息している特徴的なプランクトンは橈脚(じようきやく)類のCalanus plumchrusC.cristatusなどで,暖海に比べて種組成は単純であるが量は多い。漁獲の対象になるものにタラ,ニシン,ホッケ,ズワイガニや,沿岸性のホタテガイ,コンブなども親潮およびその沿岸域を主生活域にしている。サケ,マスなども同様であるが,成育期にはさらに外洋域を生活の中心としている。またサンマスルメイカのように産卵場は黒潮域でもおもな漁場は親潮域にある種類もある。この2種は北海道東部から常磐沖までの親潮域で日本の漁獲高の大半を占める。とくにサンマは親潮分枝の先端に好漁場が形成される。沿岸でとられるサケ,マスも親潮沿岸域が多い。しかし北洋に多いスケトウダラは,1972年には日本だけでも300万tもの漁獲量があり,73年以降世界で最も多くとれる魚種となったが,親潮域より外洋域で漁獲されるものが多い(95年の日本の漁獲量は34万t)。黒潮と異なって親潮の接岸はコンブなどの海藻を繁茂させ,これを餌とするアワビやウニなども肥育する。黒潮との潮境は複雑な極前線を作り,好漁場を形成している。
黒潮
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「親潮」の意味・わかりやすい解説

親潮
おやしお
Oyashio Current

千島海流ともよばれる北太平洋の代表的な寒流。北太平洋の北部を巡る反時計回りの亜寒帯環流の一部をなす西岸境界流で、北大西洋のラブラドル海の西部を南下するラブラドル海流や、南大西洋のアルゼンチン沖を北上するフォークランド海流に対応する。

 ベーリング海に端を発し、カムチャツカ半島、千島列島の沖を南西に流れ、北海道東岸より東に向きを転じ、亜寒帯海流に接続する。この間、オホーツク海の南部から太平洋に流出する冷水も取り込んでいる。また、北海道付近から、一部が本州東方を南下し、本州沿岸を南下する沿岸寄りの分枝と、東経145度付近を南西に延びる沖合い分枝に分かれる。親潮の海面流速はほとんどの海域で1ノット(時速約1.8キロメートル)程度である。沿岸寄りの分枝の南限位置は年により大きく変わり、平均位置は岩手県と宮城県の県境付近だが、千葉県の犬吠埼(いぬぼうさき)付近まで南下することがある。沿岸寄りの分枝の一部は、親潮と黒潮の間の混合水域の中層を南下し、黒潮続流域で黒潮の中層の水と混合し、北太平洋亜熱帯域の中層に広く分布する北太平洋中層水を形成している。

 北海道近海の親潮域の海面水温は1℃前後から20℃近くまで季節により大きく変化するが、深さ100~150メートル付近には年間を通じて2℃以下の中冷水がみられる。

 また親潮系の水は塩分33.5psu(psuはpractical salinity unitの略、実用塩分単位)以下と低塩分でプランクトンや海藻の生育に必要な栄養塩に富み、うす緑に近い水色をしている。多くの有用水産物を生み出すため親潮の名がつけられ、流域は世界有数の漁場となっている。

[長坂昂一・石川孝一]

『川合英夫著「黒潮と親潮の海況学」(『海洋科学基礎講座2』所収・1972・東海大学出版会)』『日高孝次著『海流の話』(1983・築地書館)』『堀越増興・永田豊・佐藤任弘著『日本の自然7 日本列島をめぐる海』(1987・岩波書店)』『星野通平・久保田正編著『日本の自然3 日本の海』(1987・平凡社)』『農林水産省農林水産技術会議事務局編・刊『親潮水域における海洋環境と餌料生物生産維持機構の解明』(1991)』『関根義彦著『海洋物理学概論』4訂版(2003・成山堂書店)』

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百科事典マイペディア 「親潮」の意味・わかりやすい解説

親潮【おやしお】

千島海流とも。千島列島の東方海域を列島に沿って南西に向かい,北海道南東岸を過ぎて三陸沖まで南下する寒流。オホーツク海,千島近海,ベーリング海等の海氷が解けて生じた低い塩分(表面で約18.4‰以下)の海水を運ぶ。厚さ約200〜400mの極流で流速は弱く0.3〜1.0ノット。栄養塩に富みプランクトンが多いので魚介類等を育成することから〈親潮〉と呼ばれている。
→関連項目鹿島灘寒流極流黒潮三陸海岸

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「親潮」の意味・わかりやすい解説

親潮
おやしお
Oyashio

千島海流ともいう。北太平洋の亜北極環流の西側を構成する寒流。この海流はベーリング海からカムチャツカ半島,千島列島に沿い南西に流れ,オホーツク海からの水を合せて日本の北東岸近く,ほぼ北緯 35°~40°まで達し黒潮と接する。一部は黒潮の下にもぐり込み (親潮潜流 ) ,低塩分の中層水としてさらに南に流れるといわれているがはっきりしない。親潮の水は低温 (表層で 15℃以下) ,低塩分 (33~33.7‰) であり,栄養塩類溶存酸素量も多く,プランクトンに富み,親という名の示すように生物生産力が高い。黒潮に比ベ流速は遅く平均 0.7ノット程度である。

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海の事典 「親潮」の解説

親潮

千島列島に沿って南西に流れ、北海道・三陸沖にいたる海流。北太平洋亜寒帯循環の西岸沿いに南下する部分を構成する。地理学等で千島海流と呼ぶことがある が、海洋学では用いない。親潮は流れとしては弱く、流速値は高々50cm/s程度である。しかし、流れの層は厚く、流量としては黒潮に匹敵すると考えられ ている。親潮は本来海流を指す言葉であるが、その流域にある水塊・親潮水を指すことも多い。 (永田)

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