千島海流Kuril Currentの通称。酸素や栄養塩に富み,魚類や海藻類をよく育てることから,親潮と名づけられた。北太平洋北部の亜寒帯環流における西岸流であり,千島列島の東から北海道南東岸沿いに流れ,さらに本州東岸を三陸沖まで南下している。北大西洋のラブラドル海流,南大西洋のフォークランド海流に対応している。
親潮はベーリング海に源流があり,カムチャツカ半島,千島列島沖を通過する際,オホーツク海の海水も混合すると考えられる。したがって親潮を構成するのは低塩分,低温の亜寒帯水である。例えば北緯42°~45°付近で水深200~500mにある海水の塩分は33.7~34.0‰であり,これは黒潮の34.5~35.0‰に比べると低い。また水温も4~5℃で,同じ深さの黒潮が12~18℃であるからかなりの差がある。表層においても夏で19℃,冬で1℃程度しかない。このため親潮は寒流といわれる。
北海道沿岸における親潮の流量は毎秒約1500万t(15×106m3/s)と見積もられ,これは黒潮の流量の1/3以下である。親潮は通常最も岸寄りに親潮沿岸流,その沖合に親潮本流,さらにその沖に親潮反流という構造を成しているが,親潮本流の流速は平均1ノット程度と推算されており,黒潮に比して弱い流れであるといえる。
親潮は一般に夏季より冬季に強まるとされているが,この親潮の動向は北海道や東北地方の気候を定める要因の一つとなっている。例えば夏季においても親潮が弱まらない年には,東北地方の農作物に冷害が生じることが多い。この関係はすでに1902年と05年の凶作のときに海水の異常低温が指摘されている。31年と34年の冷害の後,夏季における東北地方の水温の観測から冷害の予報を行うようになった。
執筆者:宮田 元靖
親潮は栄養塩に富んでいる。夏季には表層水の栄養塩は植物プランクトンに利用されて黒潮域の100m層のそれに近いが,水温躍層直下の20~50m層ではリン酸態リン1~2μmol/l(=μg atoms/l),ケイ酸態ケイ素数十μmol/l,硝酸態窒素約20μmol/l以下,溶存酸素6ml/l以上であり,栄養塩は黒潮系水より1桁多い。そのため夏季には有光層内のクロロフィル含量は0.8~1.2mg/m3にもなり,プランクトンも多く濁っている。透明度は15m以下,水色も4~7と緑色から黄緑色を呈する。
生息している特徴的なプランクトンは橈脚(じようきやく)類のCalanus plumchrus,C.cristatusなどで,暖海に比べて種組成は単純であるが量は多い。漁獲の対象になるものにタラ,ニシン,ホッケ,ズワイガニや,沿岸性のホタテガイ,コンブなども親潮およびその沿岸域を主生活域にしている。サケ,マスなども同様であるが,成育期にはさらに外洋域を生活の中心としている。またサンマやスルメイカのように産卵場は黒潮域でもおもな漁場は親潮域にある種類もある。この2種は北海道東部から常磐沖までの親潮域で日本の漁獲高の大半を占める。とくにサンマは親潮分枝の先端に好漁場が形成される。沿岸でとられるサケ,マスも親潮沿岸域が多い。しかし北洋に多いスケトウダラは,1972年には日本だけでも300万tもの漁獲量があり,73年以降世界で最も多くとれる魚種となったが,親潮域より外洋域で漁獲されるものが多い(95年の日本の漁獲量は34万t)。黒潮と異なって親潮の接岸はコンブなどの海藻を繁茂させ,これを餌とするアワビやウニなども肥育する。黒潮との潮境は複雑な極前線を作り,好漁場を形成している。
→黒潮
執筆者:二村 義八朗
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
千島海流ともよばれる北太平洋の代表的な寒流。北太平洋の北部を巡る反時計回りの亜寒帯環流の一部をなす西岸境界流で、北大西洋のラブラドル海の西部を南下するラブラドル海流や、南大西洋のアルゼンチン沖を北上するフォークランド海流に対応する。
ベーリング海に端を発し、カムチャツカ半島、千島列島の沖を南西に流れ、北海道東岸より東に向きを転じ、亜寒帯海流に接続する。この間、オホーツク海の南部から太平洋に流出する冷水も取り込んでいる。また、北海道付近から、一部が本州東方を南下し、本州沿岸を南下する沿岸寄りの分枝と、東経145度付近を南西に延びる沖合い分枝に分かれる。親潮の海面流速はほとんどの海域で1ノット(時速約1.8キロメートル)程度である。沿岸寄りの分枝の南限位置は年により大きく変わり、平均位置は岩手県と宮城県の県境付近だが、千葉県の犬吠埼(いぬぼうさき)付近まで南下することがある。沿岸寄りの分枝の一部は、親潮と黒潮の間の混合水域の中層を南下し、黒潮続流域で黒潮の中層の水と混合し、北太平洋亜熱帯域の中層に広く分布する北太平洋中層水を形成している。
北海道近海の親潮域の海面水温は1℃前後から20℃近くまで季節により大きく変化するが、深さ100~150メートル付近には年間を通じて2℃以下の中冷水がみられる。
また親潮系の水は塩分33.5psu(psuはpractical salinity unitの略、実用塩分単位)以下と低塩分でプランクトンや海藻の生育に必要な栄養塩に富み、うす緑に近い水色をしている。多くの有用水産物を生み出すため親潮の名がつけられ、流域は世界有数の漁場となっている。
[長坂昂一・石川孝一]
『川合英夫著「黒潮と親潮の海況学」(『海洋科学基礎講座2』所収・1972・東海大学出版会)』▽『日高孝次著『海流の話』(1983・築地書館)』▽『堀越増興・永田豊・佐藤任弘著『日本の自然7 日本列島をめぐる海』(1987・岩波書店)』▽『星野通平・久保田正編著『日本の自然3 日本の海』(1987・平凡社)』▽『農林水産省農林水産技術会議事務局編・刊『親潮水域における海洋環境と餌料生物生産維持機構の解明』(1991)』▽『関根義彦著『海洋物理学概論』4訂版(2003・成山堂書店)』
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