数学パズル(読み)すうがくぱずる

日本大百科全書(ニッポニカ) 「数学パズル」の意味・わかりやすい解説

数学パズル
すうがくぱずる

数学遊戯ともいう。数学となんらかのかかわりがあるパズルをさす。なお、パズルというのは考えもの、すなわち、問題を解くのに主として推理によるものをいい、知識や直感、機知で解くクイズとは区別されている。

 紀元前1650年ころにエジプトで著された「リンド・パピルス」のなかに、次のように書かれた箇所がある。


これは次のような意味だと解釈されている。「7軒の家で7匹ずつのネコを飼っている。ネコはそれぞれ7匹ずつのネズミをとる。そのネズミはそれぞれムギの穂を7本ずつ食べる。このムギの穂からは7枡(ます)ずつのムギがとれる。全部あわせていくつになるか。答えは1万9607」。この解釈が正しければ、これは現在知られているもっとも古い数学パズルの問題ということができる。

 数学パズルを大きく分けると、数字のパズル、図形のパズル、パズルゲームなどに分けられる。

[高木茂男]

数字のパズル

整数の性質を利用したパズルで、魔方陣、数作り、式作り、虫食い算、数当てなどがある。

〔1〕数作り 決められた数字と方式を用いて、指定された数を表すパズルで、「4―4個の問題」や「世紀パズル(百作り)」が代表的なものである。「4―4個の問題」は、「4」を4個用い、演算記号と組み合わせて0から順に数を表すもので、
  0=44-44
  1=44÷44
  2=4÷4+4÷4
  3=(4+4+4)÷4
のようにつくっていく。1881年に科学雑誌『ノレッジ』に載ったのが初めであるという。これはその後拡張されて、ある数nを4個またはn個用いて数を表すパズルや、その年の西暦年数を利用するパズルなどが研究されている。

 世紀パズルは、1から9までの数字を増加の順(正順)か減少の順(逆順)に並べ、適当な演算記号と組み合わせて答えが100になるようにするパズルで、たとえば次のようにすればよい。

  123-45-67+89=100
  1+2+3+4+5+6+7+8×9=100
  9+8+76+5-4+3+2+1=100
〔2〕式作り 指定された条件にあうような等式をつくるパズル。左辺の数字と右辺の数字とを同一にする「数字の再現」はその一例である。

  16×4=1×64
  17×515=1751×5
  1233=122+332
  312×325=312325
〔3〕虫食い算 計算式や計算書の空白部分に適当な数字を補う問題である。日本では、虫食い証文の形の虫食い算が江戸時代から明治にかけて多数つくられている。図Aはその一例で、1808年(文化5)に松岡能一(よしいち)の著した『算学稽古(けいこ)大全』にある問題で、今日の虫食い算の形にすれば次のようになる。

  □□□45÷□□=273
 現在の虫食い算は、計算式の数字を空白にする西洋流のもので、図Bは1906年バーウィックE. H. Berwickが発表した「7―7問題」である。これは虫食い算が人々の注目を引くきっかけをつくった記念碑的な作品である。

〔4〕数当て 相手の思っている数などを当てる遊びをいう。一例をあげると、(1)トランプの、ある好きなカードを思ってもらう。(2)その数にそれより1多い数を加える。(3)それを5倍する。(4)それにクラブを6、ダイヤを7、ハートを8、スペードを9として、相当する数を加える。その結果を聞くだけで、相手の思ったカードを当てるのである。やり方は、結果から5を引けばよい。答えの1の位がカードの種類を、それより上がカードの数字を表している。当たる理由は、この操作を式にしてみればわかるだろう。カードの数字がa、種類がbである。

  {a+(a+1)}×5+b=10ab+5
 数当ての代表的なものに数当てカードがある。図Cはその簡単な例で、相手に1から15までの好きな数を一つ思ってもらい、思った数が4枚のカードのどれとどれについているかを聞く。それによって思った数を当てるのである。やり方は、相手が「ある」といったカードのいちばん左上の数を合計すればよい。

[高木茂男]

図形のパズル

図形に関するパズルで、図形分割、裁ち合わせ、図形合成などがある。

〔1〕図形分割 一つの図形をいくつかの図形に分ける問題である。正方形をすべて大きさの異なる正方形に分割する問題(ルジンの問題)や、図形を合同ないくつかの図形に分割する問題などがある。

 たとえば、図Dは、正方形を太線に沿って合同な4片に分割し、しかもダイヤ印が1個ずつ含まれるようにしたものである。

〔2〕裁ち合わせ 図形を適当に裁断して、継ぎ合わせて別の図形をつくるパズル。その際、できるだけ少ない片数に裁断するのが望ましい。図Eはその一例で、正六角形を正方形にするものである。

〔3〕図形合成 指定されたいくつかの図形を使って図形を合成するパズル。知恵の板やペントミノはその代表例である。知恵の板は、正方形、長方形多角形、円形などの板を幾片かに分割したもので、これを全部使って示された形をつくるパズルである。そのなかでもっとも有名なのがタングラムで、その片とつくる形の一例を図Fに示した。タングラムは中国で考え出された知恵の板で、七巧図とよばれた。19世紀の初めに西洋に伝えられて歓迎され、新しい形が多数つくられて、いつのまにか西洋の遊びのようになってしまった。その起源は不明だが、いまから4000年以上前に発明されたという話は、アメリカのパズル・ゲームの考案家サム・ロイドSam Loyd(1841―1911)のつくった話で、信じるに足りない。

 5個の正方形を辺を接した形で結合させると、図Gのような12種の図形が得られる。これがペントミノで、この図形全部を用いて、縦・横の比が
  6×10, 5×12, 4×15, 3×20
の長方形をつくることができる。各図形についている記号は、これを研究したソロモン・W・ゴロムが形をアルファベットに見立ててつけたもので、一般にもこれが使われていることが多い。なお、ペントミノの5個の正方形のかわりにn個の正方形を結合させたポリオミノも、多くの人の研究対象になっている。

[高木茂男]

パズルゲーム

ゲームに関するパズルで、一般に動きがあり、用具を必要とするものが多い。知恵の輪、移動板パズル、ハノイの塔などがこの例である。

〔1〕知恵の輪 輪と輪が絡み合ったり、輪と他のものとが絡み合っているものを、うまく外す玩具(がんぐ)である。きわめて種類が多いが、代表的なものがチャイニーズ・リングである。これは図Hのように細長い板に柄(え)のついた輪が数個はまっており、その輪に棹(さお)が通っているもので、この棹を輪から外す遊びである。輪の数が9個のものが九連環とよばれて古くから中国にあった。これは17世紀後半には日本にも伝えられており、一時はかなり普及していたらしい。江戸時代の大数学者会田安明(あいだやすあき)が、9歳のときにこの玩具をもらって原理を解明し、それに自信を得て数学者への道に入ったというエピソードもある。チャイニーズ・リングは西洋でも1550年にカルダーノが論じているので、古くから知られていたことがわかる。

〔2〕移動板パズル 箱の中に何枚かの板を入れ、空地を利用してその板を滑らせて動かし、指定の配列に並べ替える遊び。その代表的なものが十五パズルである。十五パズルは図Iのように、四角い箱の中に1から15までの数のついた四角い板を入れたもので、いったん順不同にしたものを図のような正しい順に並べ替えるパズルである。このパズルは1878年に売り出されたもので、サム・ロイドの考案といわれているが、異論もある。ただ、彼が14と15の位置を取り替えたものをもとに戻す問題に多額の懸賞をかけ、それが爆発的な人気をよんだことは事実である。しかし、やがてこの問題が不可能であることが証明されて、人気は下火になった。

〔3〕ハノイの塔 1883年にフランスの数学者リュカÉdouard Lucasが考案したもの。図Jは玩具の一例で、台の上に3本の棒が立っており、その1本に円板が6~9枚大きさの順にはまっている。この円板を、他の棒にそっくり移すパズルである。移し替えるときには、1回に1枚の円板しか動かせないし、移動はかならず棒から棒に行って、円板を棒以外の場所に置いてはいけない。小さな円板の上に、それより大きい円板をのせてはいけない。一般にn枚の円板を移し替えるには、2n-1手が必要である。

[高木茂男]

『平山諦著『東西数学物語』(1956・恒星社厚生閣)』『高木茂男著『パズル百科』(講談社文庫)』


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