日本大百科全書(ニッポニカ) 「ルージン」の意味・わかりやすい解説
ルージン
るーじん
Рудин/Rudin
ロシアの作家ツルゲーネフの長編小説。1856年刊。ルージンはドイツかぶれの理想主義者で博学多識、話もうまい。たちまち地方の女地主邸のサロンの中心人物となる。娘のナターリヤも彼にすっかり敬服する。だが彼女に真剣な恋を告白されると、それにまともにこたえることもできず、口舌の徒の馬脚を現す。意志や行動を欠くインテリ性格破綻(はたん)者の戯画。1840年代の「余計者」の典型を描いた作品である(二葉亭四迷(しめい)の名訳『うき草』で名高い)。「余計者」的主人公は、グリボエードフ『知恵の悲しみ』のチャツキーや、プーシキン『エウゲーニイ・オネーギン』のオネーギンや、レールモントフ『現代の英雄』のペチョーリンなどに、先例をみることができる。だがしかし「余計者」を、彼らを生み出した歴史的・社会的条件との関連においてとらえ、時代の完全な典型にまで仕上げることのできたのは、『ルージン』をもって嚆矢(こうし)とする。ただこの小説は構成上、かならずしも首尾一貫していない。おそらくそれは作者が、たまたま初出当時、この作品に対して加えられた批評家の指摘に応じ、改作をしたことと無関係ではあるまい。とってつけられたような結末に、作者苦渋の跡がみられる。
[佐々木彰]
『中村融訳『ルーヂン』(岩波文庫)』▽『『うき草』(『二葉亭四迷全集2』所収・1964・岩波書店)』▽『金子幸彦著『ロシヤ小説論』(1975・岩波書店)』