日本大百科全書(ニッポニカ) 「時間の遅れ」の意味・わかりやすい解説
時間の遅れ
じかんのおくれ
time dilation
運動や重力によって時間の進み方に違いが出るという、相対性理論により予言された現象。特殊相対性理論による時間の遅れと一般相対性理論による時間の遅れと2種類ある。ニュートンが絶対時間という概念を提唱して以来、時間は一定方向に同じ進み方をするもの(絶対時間)と考えられてきた。その後、どのような座標系(どのような運動をしているかに限らず)で測定しても光速度が一定であることが19世紀末に判明した。それを受けて、1905年にアインシュタインは、いままで運動を測る絶対的な(不変の)物差しであった時間と空間が光速度一定であるように変化するという特殊相対性理論を提案した(いかなる場合でも光速度が一定であるとは、速度vはv=x/tなので、この時間tと空間xがローレンツ変換に従っていっしょに変化するしかないことになる)。この理論により、互いに運動する座標系どうしで相手の時間を観測すると、互いに時間が遅れているように観測されることが予言された。この時間の遅れは高速で飛来する宇宙線シャワー内の素粒子の寿命が地上のものより長く観測されることや、GPS(Global Positioning System=全地球測位システム)での人工衛星と地上の受信機との時刻合わせなどで確認されている。その後、アインシュタインは特殊相対性理論で提起した四次元時空を拡張した一般相対性理論で重力場における時間の遅れを提唱した。一般相対性理論では、重力は四次元時空の歪(ゆが)みのことであり、その歪みの時間的表現が時間の進行の遅れを示す。強い重力場では四次元時空の歪みがより大きくなり、より時間の進行の遅れを示す。
[山本将史 2022年3月23日]