日本大百科全書(ニッポニカ) 「月はどっちに出ている」の意味・わかりやすい解説
月はどっちに出ている
つきはどっちにでている
日本映画。1993年(平成5)作品。崔洋一(さいよういち)監督。WOWOW(ワウワウ)で放送された自身の短編を劇場用に撮り直して完成。原作は梁石日(ヤンソギル)の『タクシー狂躁(きょうそう)曲』、製作・配給シネカノン、プロデューサーに李鳳宇(リボンウ)(1960― )、青木勝彦(あおきかつひこ)、脚色は鄭義信(チョンウィシン)(1957― )と崔洋一、撮影藤澤順一(ふじさわじゅんいち)(1950― )、美術今村力(いまむらつとむ)(1943― )。在日韓国人のタクシー運転手姜忠男(カンユンナム)(岸谷五朗(きしたにごろう)、1964― )は、母(絵沢萌子(えざわもえこ)、1935/1939―2022)の経営するフィリピン・パブでコニー(ルビー・モレノRuby Moreno、1965― )に惚(ほ)れる。彼の勤める金田タクシーは、元自衛隊の安保、パンチドランカーのホソ、ヤンキーあがりのおさむ、強欲な谷爺、出稼ぎイラン人など、適応障害者ばかり。二代目社長の金世一(小木茂光(おぎしげみつ)、1961― )は、金融ヤクザ紺野(古尾谷雅人(ふるおやまさと)、1957―2003)の借金で首が回らなくなり、会社に火を放つ。岸谷は初主演、不良っぽく軽薄な「在日」を好演。ルビー・モレノの大阪弁も魅力的である。民族差別ネタを笑いに変え、ドタバタ喜劇風の新たな娯楽映画を生み出した崔洋一の出世作。キネマ旬報ベスト・テン第1位。
[坂尻昌平]