奇怪な、あるいは不思議な形体や生態の獣。学術的なことばではないが、だいたい次の四つに分けられる。(1)恐竜を中心とする太古の動物。(2)空想上の動物。(3)実在するといわれる謎(なぞ)の動物。(4)SFや映画に登場する動物。
[梶 龍雄]
中生代に栄えた爬虫(はちゅう)類の恐竜は、現代の哺乳(ほにゅう)類の動物とはかなり相違した巨大さと不思議な形をもっていた。またその生存が確かめられるのは化石としてだけであったから、その実存が人を不思議がらせたため、怪獣とよばれるようになった。新生代に入ってからの絶滅した動物、ステゴドンゾウ、メリテリウム、マンモスゾウなども含めて、いまでもこれらの動物を怪獣とよぶことも多い。
[梶 龍雄]
ギリシア・ローマ神話、聖書、伝説口碑などでつくられた怪獣と、実際の動物の瞥見(べっけん)や伝聞に空想を加えてつくりあげられた怪獣とに分けられる。ギリシア神話のケンタウロスは上半身が人間、下半身がウマであるし、ゴルゴンは人間の女の姿をしながら、鳥の翼と爪(つめ)をもち、髪は何百匹というヘビ、グリフォンは鷲(わし)と獅子(しし)の入り交じった怪獣である。形体やまつわる伝説に多少の相違はあるが、世界中に広く流布されているものに竜(ドラゴン)がある。中国、日本にも怪獣は多く、鵺(ぬえ)は首はサル、体はトラ、尾はヘビであるが、羽をもつ鳥で、赤子のような声で鳴くといい、河童(かっぱ)もまた怪獣の仲間に入れていいだろう。しかしこれらの怪獣のなかにも一部現実の動物をよりどころにしているものもある。たとえばケンタウロスはウマを知らない民族が乗馬の人間を見たことから、鵺はトラツグミの鳴き声を聞いたことからだというようなこともいわれている。人魚(マーメイド)やノルウェーの海に住む巨大生物クランケンは、この実在の動物から考えられた空想の怪獣という疑いも濃い。人魚は海牛のジュゴンやマナティーから、クランケンは大イカの連想にさまざまの空想脚色が付加されたとも想像できる。
[梶 龍雄]
交通機関も未発達で、写真なども存在しなかった往時は、遠国に生息する動物に対する知識は、目撃者の不完全な記憶だったり、また潤色の強い話だったりしたために、多くは怪獣として受け取られていた。サイがカメの甲らを背負っていたり、キリンは単に首の長いウマだったりしたし、20世紀に入っても、パンダなどは猛獣とされて凶悪な様相の顔が描かれ、猛獣狩り隊が派遣されたりした。だが動物の調査と研究が急速に発展した現代では、もはや哺乳動物の新種発見などはないだろうといわれている。しかし、そのなかにあって、いまだに未発見だといわれている謎の動物の怪獣もいる。1951年イギリスの探検隊に足跡を発見されたころから急速に話題になったヒマラヤの雪男(イェティ)は、同類がカナダの森林地帯にサスカッチと名づけられて存在するともいう。日本でも広島県比婆(ひば)郡の山中にいるという噂(うわさ)もあり、ヒバゴンと名づけられている。ネッシーはスコットランドのネス湖に住む恐竜ともいわれる巨大怪獣で、1934年写真にそれらしい像が収められたとの噂から、急速に世界中の話題になった。なお、これらの謎の動物はUMA(ユーマ)(Unidentified Mysterious Animal=未確認動物)ともよばれている。
[梶 龍雄]
SFや児童向けの娯楽物、とくに映画のなかでつくられた、まったくの空想の怪獣であるが、現今は怪獣というと、これだけをさしていうこともある。SFでは地球外の宇宙生物としてベムという総称が用いられ、イギリスの作家H・G・ウェルズが『宇宙戦争』The war of the worlds(1898)で火星人をつくって以来、さまざまの宇宙怪獣がつくられてきた。映画では巨大なゴリラが主人公のアメリカ映画『キング・コング』が怪獣映画の始まりであるが、今日の日本の怪獣ブームをよんだのは、円谷英二(つぶらやえいじ)の特殊効果撮影を使った『ゴジラ』(1954)で、以後、円谷プロは『ウルトラマン』をはじめとするウルトラシリーズなどで、主として、人間が縫いぐるみに入って演技する怪獣、ガラモン、ゴモラ、ゴルゴスなど、数多くの怪獣をつくりあげ、子供たちの人気ものにした。また「ゴジラ」と人気を二分する巨大蛾(が)の怪獣「モスラ」や、カメをモデルにつくられた怪獣「ガメラ」のシリーズなどが相次いで製作され、怪獣映画の黄金時代が築かれた。1970年代後半以降怪獣映画は衰退したが、1984年にゴジラ生誕30周年を記念した『ゴジラ』が製作されたのをきっかけに復活の兆しがみえはじめ、1990年代以降は「ゴジラ」「モスラ」「ガメラ」をはじめとする怪獣の映画がコンスタントにつくられている。海外では、コンピュータ・グラフィクスを駆使したスティーブン・スピルバーグの恐竜映画『ジュラシック・パーク』(1993)や、『ゴジラ』をリメイクしたSFXモンスター・ムービー『GODZILLA』(1998)がハリウッドで製作され話題をよんだ。
[梶 龍雄]
『吉田健一編『謎の怪物・謎の動物』(1964・新潮社)』▽『H・ヴェント著、小原秀雄・羽田節子・大羽更明訳『世界動物史』上下(1974・平凡社)』▽『実吉達郎著『UMA 謎の未確認動物』(1976・スポーツニッポン新聞社出版局)』▽『小向正司編『UMA(未知動物)』(1993・学習研究社)』▽『ウェンディ・ラーソン文、富田京一解説『ジュラシック・パーク――よみがえる恐竜のひみつ』(1993・ほるぷ出版)』▽『南山宏著『謎の巨大獣を追え――未知動物「ヒドン・アニマル」の正体を徹底検証』(1993・広済堂出版)』▽『宇留島進著『日本の怪獣・幻獣を探せ!――未確認生物遭遇事件の真相』(1993・広済堂出版)』▽『デヴィッド・アレン、ジェームズ・ヴァン・ハイス、ボブ・ハーン、ダグラス・ダイアモンド著、ジャパン・ミックス編訳『ジュラシックな恐竜とスピルバーグな野郎ども』(1993・ジャパン・ミックス)』▽『今泉忠明著『謎の動物の百科』(1994・データハウス)』▽『Another-1編『ゴジラ・特撮大全集――東宝怪獣映画の決定版!!』(1994・ナツメ社)』▽『金城哲夫・大伴昌司著『大復刻 怪獣大図鑑』(1997・朝日ソノラマ)』▽『元山掌著『怪獣大図鑑』(1997・グリーンアロー出版社)』▽『金子修介著『ガメラ監督日記』(1998・小学館)』▽『ピーター・ミュソッフ著、小野耕世訳『ゴジラとは何か』(1998・講談社)』▽『坂井由人・秋田英夫著『ゴジラ来襲!!――東宝怪獣・SF特撮映画再入門』(1998・ロングセラーズ)』▽『ナイト・ストカーズ編著『原子怪獣あらわる!――GODZILLA誕生の秘密と日本特撮ソフトの未来』(1998・フットワーク出版)』▽『GODZILLA愛好会編著『ゴジラ「超」事典――ゴジラ vs GODZILLA』(1998・飛天出版)』▽『ホルヘ・ルイス・ボルヘス、マルガリータ・ゲレロ著、柳瀬尚紀訳『幻獣辞典』(1998・晶文社)』▽『八本正幸著『怪獣神話論』(1998・青弓社)』▽『『映画怪獣大百科――ゴジラ・ガメラ・モスラ・ヤマトタケル』(1999・ポプラ社)』▽『竹内博著『元祖怪獣少年の日本特撮映画研究四十年』(2001・実業之日本社)』▽『エドウィン・H・コルバート著、小畠郁生・亀山龍樹訳『恐竜の発見』(ハヤカワ文庫)』▽『巽孝之著『恐竜のアメリカ』(ちくま新書)』▽『実相寺昭雄著『怪獣な日々――わたしの円谷英二100年』(ちくま文庫)』▽『笹沢教一著『恐竜が動きだす――デジタル古生物学入門』(中公新書)』▽『Carey Miller:A Dictionary of Monsters and Mysterious Beasts (1974, Pan Books Ltd., London)』
…だが一方では,19~20世紀にかけてアメリカのバーナム座のように奇形の見世物で大当りを取る興行師も出ている。19世紀はほかにも,恐竜のような古代怪獣の生き残りを新たな怪物概念として呈示した。これは古代生物が今も現存するはずだと主張した博物学者ラマルクらの影響が大きく,ネス湖の怪獣(ネッシー)や雪男の実見談へと発展している。…
※「怪獣」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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