日本大百科全書(ニッポニカ) 「北村太郎」の意味・わかりやすい解説
北村太郎
きたむらたろう
(1922―1992)
詩人。東京・谷中(やなか)に生まれる。本名松村文雄。東京大学仏文科卒業。詩は第二次世界大戦前から『LUNA』(中桐雅夫(なかぎりまさお)編集)などに発表していたが、第二次『荒地(あれち)』(1947.9)に参加し、その有力なメンバーとして活躍した。「春はすべての重たい窓に街の影をうつす。/街に雨はふりやまず、/われわれの死のやがてくるあたりも煙っている。」(『雨』冒頭)のように、倦怠(けんたい)と幻滅の情緒で戦後叙情詩の典型を示した。『北村太郎詩集』(1966)以下『冬の当直』(1972)、『冬を追う雨』(1978)、『あかつき闇(やみ)』(1978)、『ピアノ線の夢』(1980)、『悪の花』(1981)などがある。1980年代から90年代にかけては、『犬の時代』(1982。芸術選奨文部大臣賞)、『笑いの成功』(1985。歴程賞)、『港の人』(1988。読売文学賞)、『路上の影』(1991)などがある。80年代以降は詩人論、詩論など散文の分野でも精力的に活動し、『ぼくの現代詩入門』(1982)、『詩人の森』(1983)、『ぼくの女性詩人ノート』(1984)、『詩へ詩から』(1985)、『うたの言葉』(1986)、鮎川信夫や吉本隆明、石垣りんの詩人論を中心にした『世紀末の微光――鮎川信夫、その他』(1988)などを著した。また、詩と散文で構成される『北村太郎の仕事』全3巻(1990~91)が刊行された。没後に刊行されたものとして、最晩年の詩編と散文『すてきな人生』(1993)、自伝『センチメンタルジャーニー――ある詩人の人生』(1993)、『現代詩文庫 続・北村太郎詩集』(1994)、散文集『樹上の猫』(1998)がある。とくに自伝については、死の直前まで手を入れ続けたが、完成には至らず、編集者らが誤記など最低限の手直しをして出版にこぎつけたもの。翻訳家としても知られ、児童文学からミステリーまで訳書多数、1993年(平成5)には日本翻訳大賞特別賞を受賞した。
[角田敏郎]
『『冬の当直 北村太郎詩集』(1972)』▽『『北村太郎詩集』(1975・思潮社)』▽『『冬を追う雨』(1978・思潮社)』▽『『あかつき闇』(1978・河出書房新社)』▽『『ピアノ線の夢』(1980・青土社)』▽『『悪の花』(1981・思潮社)』▽『『新編北村太郎詩集』(1981・小沢書店)』▽『『犬の時代』(1982・書肆山田)』▽『『ぼくの現代詩入門』(1982・大和書房)』▽『『詩人の森』(1983・小沢書店)』▽『『ぼくの女性詩人ノート』(1984・大和書房)』▽『『笑いの成功』(1985・書肆山田)』▽『『詩へ詩から』(1985・小沢書店)』▽『『うたの言葉』(1986・小沢書店)』▽『『港の人』(1988・思潮社)』▽『『北村太郎の仕事』全3巻(1990~91)』▽『『路上の影』(1991・思潮社)』▽『『すてきな人生』(1993・思潮社)』▽『『センチメンタルジャーニー――ある詩人の生涯』(1993・草思社)』▽『『続・北村太郎詩集』(1994・思潮社)』▽『『樹上の猫』(1998・港の人)』▽『黒田三郎著『北村太郎』(『現代の詩と詩人』所収・1974・有斐閣選書)』▽『絓秀実著『詩的モダニティの舞台』(1990・思潮社)』▽『川崎洋著『すてきな詩をどうぞ』(1995・筑摩書房)』▽『岡本勝人著『ノスタルジック・ポエジー――戦後の詩人たち』(2000・小沢書店)』▽『ねじめ正一著『言葉の力を贈りたい』(2002・日本放送出版協会)』