金銭を借りること、または借りた金銭のことをいう。消費者にとくに関係の深いのは、不動産やその他の物品、サービスなどの購入のために、金融機関や貸金業者などから借りる分割返済の借金である。日本では、1960年代なかばごろまで一般消費者の所得水準は低く、借金をしても返済能力がほとんどなく、しかもおもな貸し手は悪徳の高利貸などであったため、借金は健全な消費者のするものではないと考えられていた。しかしその後、(1)所得水準があがったため、ある程度の借金ならばさほど無理をしなくても返済できる余裕が生じたこと、(2)借金をすることも、目的によっては生活をより充実させるために役だつことが広く認識されるようになったこと、(3)1975年(昭和50)ごろになると、銀行が少し容易に融資を行うようになったこと、また、サラリーマン金融業者(いわゆるサラ金)が派手な広告で客を誘引しては、過度にまたは積極的に融資するようになったこと、などから必要な際には抵抗なしに借金をする消費者が多くなった。
消費者の借金の代表的なものは、住宅ローンと小口のフリー・ローン(使途自由)などである。前者のおもな貸し手は、住宅金融支援機構および銀行などで、これは多額で長期の返済期間を要するため、購入不動産が担保とされる。後者のおもな貸し手は、銀行などの一般金融機関とサラリーマン金融業者で、担保物件や保証人は不要という場合が多い。ただしサラ金では業者が大変な高利をとったり、過剰融資や、貸付金の強引な取り立てを行う例が1975年ごろより激増し、それらは種々の弊害を全国的に発生させ、非常に大きな社会問題を引き起こした。そこでこのサラ金について、1983年に「貸金業の規制等に関する法律」(貸金業規制法、2007年「貸金業法」に改称)と「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締り等に関する法律の一部を改正する法律」(出資法)が制定、施行され、その後も一部の法改正がなされて問題の解決が図られた。まず前者に基づく大蔵省(当時)通達によって借り主1人当りへの貸付限度額は50万円もしくは借り主の年収額の10%以内に制限され、一方後者によって刑罰の科せられる金利はそれまでの年109.5%超から段階的に引き下げられ、2010年(平成22)6月の改正法施行以降は年20%超となった。しかし依然としてかなりの数のサラ金業者(現在は一般に消費者金融業者とよばれる)が、すでに他の業者から借金をしている借り主と知りながら、さらに重ねて融資するという、いわゆる過剰融資はなくなっていない。そのうえカード会社が、無謀な利用を引き起こすクレジットカードの安易な発行を行うので、過重となった借金やカード債務からの返済不能者は増え続け、またバブル崩壊後の長引く不況による失業や所得の減少で、住宅ローンの返済不能者も増加している。その結果、自己破産(個人破産)の年間申請件数は1998年にはついに10万件を突破、2002年には20万件を超え、さらに2003年には24万2377件と増加した。その後、任意整理手続など自己破産以外の選択肢も浸透し、2008年には12万9508件、2012年には8万2668件と申請件数は減少傾向にあるが、借金弊害は多くの人々の間に広がっている。
物品やサービスの購入のためで金利が年10%程度以下の借金か、あるいは不動産の購入のためで金利が年3%前後の借金ならば、(1)お金がたまるまで待たなくても高価な品物が必要なときに購入できる、(2)インフレや、所得の上昇がある場合になされる借金は、返済の実質的負担が先で軽くなるので、借金による購入のほうが蓄えてからよりも安く買える、といった利点がある。
他方借金の最大の欠点は、クレジットカードの使い過ぎを含めて、過大な借金をしやすいこと、またそれが返せなくなって借り手を自殺などの悲劇に追い込む危険性があることである。これを防止するためには、借金は月々の合計返済額が、返済のないときの月々の貯蓄可能額の範囲内にとどまるよう、慎重に行うことである。借金は、両刃(もろは)の剣的性格を強くもつものであることを忘れてはなるまい。ちなみに借金が多額過ぎてどうしても返済できないときでも、自殺などすべきではない。自己破産を行って裁判所より免責(返済免除)の決定をしてもらい、人生の再出発をする道がある。
[上田昭三]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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