改訂新版 世界大百科事典 「有効質量」の意味・わかりやすい解説
有効質量 (ゆうこうしつりょう)
effective mass
結晶内の電子の運動をきめる見かけの質量。バンド理論によれば,結晶内の電子は,構成原子からの力を受けるにもかかわらず,真空中の自由な電子と似た運動を行う。ただし,電場や磁場などの力による加速の際,通常とは異なる質量をもつもののようにふるまう。これが有効質量で,通常の電子質量mと区別してm*という記号で表す。電子のその他の性質も,多くはこのm*によって支配される。m*の値はサイクロトロン共鳴などの実験によって測定される。ふつうの電気伝導性のよい金属の伝導電子のm*はmと大差なく,m*/mはだいたい0.7~1.4の範囲にある。半導体の伝導電子の場合,m*/mはときとして非常に小さくなる(GaAs 0.068,GaSb 0.047,InAs 0.022,InSb 0.013など)。しかし有効質量の性質は一般的にはもっと複雑である。まずスカラーでなくテンソルであり,このためm*は一般に異方性を示す。例えばSiの伝導電子のm*/mは,2方向に0.1905,1方向に0.9163である。またm*の値は電子のエネルギーとともに変化する。上述のような小さなm*も伝導電子のエネルギーが増すにつれ重くなる。
執筆者:黒沢 達美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報