末梢血管拡張性小脳失調症

内科学 第10版 の解説

末梢血管拡張性小脳失調症(ファコマトーシス(母斑症、神経皮膚症候群))

(5)末梢血管拡張性小脳失調症(ataxia telangiectasia,Louis-Bar症候群)
概念
 眼球結膜の毛細血管拡張,進行性の小脳失調免疫不全発癌性を示す多系統疾患である.
病因・病態
 11番染色体(11q23)にあるATM遺伝子の異常による疾患で,常染色体劣性遺伝を示す.ATM蛋白は遺伝子損傷の修復に重要な役割を果たし,本疾患ではないがATM遺伝子異常のヘテロ接合体では,乳癌の発生率が正常の5倍に上昇するなど,発癌に関連した遺伝子として注目されている.
臨床症状
1)毛細血管拡張:
幼児期より眼球結膜,頬部や耳介にみられる.
2)神経症状:
幼児期より進行性の小脳失調が発症し,眼球運動失行の所見が早期から認められ,患者は頭部の素早い動きと閉眼によって代償しようとする.舞踏病様アテトーゼやジストニア,軽度精神遅滞を伴うこともある.
3)免疫不全:
2/3の患者では,細胞性免疫と液性免疫の両方にさまざまな程度の異常が認められる.幼児期より細菌・ウイルス・真菌による中耳炎副鼻腔炎を含む呼吸器感染を反復する.
4)悪性腫瘍:
正常の約1000倍の発症率であり,おもにリンパ球系の白血病・悪性リンパ腫を発症する.その他の固形腫瘍の頻度も高い.
5)その他:
糖尿病(インスリン抵抗性),性腺機能障害,早老症毛髪,皮膚など)がしばしば認められる.
検査成績
 染色体検査では,7番と14番染色体の切断・転座・挿入などの脆弱性を示す.免疫系では,血中IgA,IgE,IgG2の低下,末梢血T細胞の減少,CD4/CD8比低下,リンパ球減少,リンパ球幼若化試験低値などの免疫不全の所見を認める.また血清αフェトプロテイン(AFP)高値は診断の参考となる所見である.皮膚線維芽細胞の放射線感受性亢進がみられ,頭部MRIでは小脳に萎縮像が認められる.
診断
 特徴的な毛細血管拡張が小児期に出現すれば,診断は比較的容易である.その他前述の検査所見も参考になる.
治療・予後
 感染症に対する対症療法が中心となる.小児期より車椅子での生活となり,10~20歳代に,呼吸器感染,悪性腫瘍にて死亡することが多い.[岡 明]
■文献
Gutmann DH, Aylsworth A, et al: The diagnostic evaluation and multidisciplinary management of neurofibromatosis 1 and neurofibromatosis 2. JAMA, 278: 51-57, 1997.
Neurofibromatosis. Conference statement. National Institutes of Health Consensus Development Conference. Arch Neurol, 45: 575-578, 1988.
Roach ES, Gomez MR, et al: Tuberous sclerosis complex consensus conference: revised clinical diagnostic criteria. J Child Neurol, 13: 624-628, 1998.
執印太郎:フォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病診療ガイドライン,中外医学社,東京,2011.
Thiele EA, Korf BR: Phakomatoses and allied conditions. In: Swaiman’s Pediatirc Neurology: Principles and Practice, 4th ed (Swaiman KF, Ashwal S, et al eds), pp497-517, Mosby, Philadelphia, 2012.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android