日本大百科全書(ニッポニカ) 「板締め」の意味・わかりやすい解説
板締め
いたじめ
裂(きれ)を板の間に挟んで強く締め、その圧力によって染料の浸透を防いで文様を染め出す染色法。防染技法として古くから行われたもので、すでに奈良時代にはきょう纈(きょうけち)や纐纈(こうけち)の一種である畳み染めがこの種の技法で製作され、今日においても有松・鳴海(なるみ)の素朴な雪花絞りや、一部の絣(かすり)の糸染めに応用されている。
しかし一般に「板締め」あるいは「板締(いたじめ)染め」とよぶ場合には、主として近世になって板締めの技法で染められた文様染めをさしている。これは板の両面もしくは片面に文様を浮彫りにしたものを十数枚から二十数枚用い、これに裂をジクザグにかけて両側から強く締め、染料を注ぐか、浸染(しんせん)して文様を白く染め抜いたものである。資料のうえでは、紫地に小蝶(こちょう)を白く染め抜いた室町時代の作例(天野社伝来。現在東京国立博物館蔵)が残っているが、これが精巧化され、もっとも広く製作されたのは江戸末期から明治・大正期にかけてのことである。多くは薄い絹を用い、紅染めあるいは藍(あい)染めにして白く文様を表した単色のもので、もっぱら長繻絆(ながじゅばん)や襲(かさね)の胴裂(どうぎれ)、羽織の裏などに使用された。こうした板締染めは、型板をつくる労力や時間のわりには華々しい多彩な染め文様を製作することができず、しだいに機械的なプリント染めなどに押されて大正中期から後期の間に衰微してしまい、現在この種の文様染めは行われていない。
[小笠原小枝]