改訂新版 世界大百科事典 「栄養要求」の意味・わかりやすい解説
栄養要求 (えいようようきゅう)
nutritive requirement
生物が個体と種の維持のために必要な物質を外界から摂取しなければならないこと。緑色植物は光のエネルギーを利用して必要なすべての有機物質を合成する能力があるので,二酸化炭素とN,K,Pなどを含む無機塩類が与えられればよいが,多くの微生物や動物は生命活動のエネルギーと体構成物質の材料を得るために種々の有機化合物や無機塩類を要求する。ある生物がどのような栄養物質を要求するかは,その生物の物質利用能力と合成能力によってきまる。動物はある種のアミノ酸(必須アミノ酸)やビタミンを体内で合成することができないので,これらは食物として補給されなければならない。要求物質の種類は種によって異なり,たとえばアスコルビン酸(ビタミンC)はヒトを含む霊長類やモルモットにとっては不可欠であるが,他の哺乳類はそれを合成できるので必要としない。微生物などでは,同じ種においても特定の物質を合成する能力を欠いた栄養要求性突然変異体auxotrophが生じることがよく知られている。1941年にビードルG.W.BeadleとテータムE.L.Tatumはアカパンカビのこのような突然変異体を用いて,細胞内の生化学的反応をつかさどる酵素群の遺伝学的研究を行い,一遺伝子一酵素仮説を提唱するに至った。
執筆者:佃 弘子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報