アカパンカビ(英語表記)red bread mold
Neurospora

改訂新版 世界大百科事典 「アカパンカビ」の意味・わかりやすい解説

アカパンカビ
red bread mold
Neurospora

子囊菌類核菌類のカビ。生焼きのパンに生えて赤くするのでこの名が与えられたが,日本ではトウモロコシの芯,火災跡の木の表面に普通みられる。菌糸体発育が早く,ゆるく盛り上がる菌糸からなり,赤橙色~赤黄色をした美しいカビである。ゆるく絡まった菌糸の先端に,数珠状につながった円筒形分生子が形成され,分生子は赤色をおび,軽くて飛びちりやすい。菌糸体の基部付近に有性生殖器官の黒い子囊殻が形成される。子囊殻はフラスコ形,暗黒色で,内部に8個の子囊胞子をもった細長い子囊が縦にならぶ。8個の子囊胞子半数ずつ雌雄両性に分かれ(正確には自家不稔性),単独の子囊胞子から生えたカビだけでは有性生殖は完成されず,それぞれに適した支配型のかけ合せを必要とする。代表種はネウロスポラ・クラッサN.crassa Shear et Dodgeおよびネウロスポラ・シトフィラN.sitophila Shear et Dodgeで,ビードルG.W.Beadleらがこれらの栄養要求性突然変異体を利用して遺伝生化学の分野を確立した。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アカパンカビ」の意味・わかりやすい解説

アカパンカビ
あかぱんかび
[学] Neurospora

子嚢(しのう)菌類、タマカビ目に属するカビ。red bread mouldの訳語で、焼け焦げたパンの上によくみられるのでこの名がある。また焼け跡樹木の表面や、地上に捨てられたトウモロコシの食べかすなどの上にも日常的にみられる。当初は無性生殖だけが知られており、モニリア属Moniliaとして取り扱われた。その後、アメリカのシアーShearとダッジDodgeの研究によって、両性株があることが確認され、互いに異なる性が出会った際には、子嚢殻を形成することが実験的にも証明された。子嚢殻の大きさは木綿針の頭程度で、形は洋ナシ形、成熟すると黒色となる。子嚢殻中には子嚢が多数入っており、その中に、黒色でしわのある膜をかぶった子嚢胞子が8個ずつ入っている。成熟すると、子嚢胞子は子嚢殻の頂部のくぼみから放出される。アメリカの学者ビードルBeadleとターツムThatumは変異株を使って遺伝生化学的研究を行い、遺伝学に画期的な進展をもたらした。このため2人は1958年ノーベル医学生理学賞を授けられた。インドネシアではラッカセイにアカパンカビをつけオンチョンOntjonという食物をつくる。日本では飼料の製造や成分強化にこのカビが利用される。

[曽根田正己]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アカパンカビ」の意味・わかりやすい解説

アカパンカビ(赤麺麭黴)
アカパンカビ
Neurospora; red bread mold

子嚢菌類タマカビ目ソルダリア科に属するカビ。夏秋の頃,焼いたトウモロコシの芯などを地上に放置するとよく発生する。この胞子は熱に強く,パン製造の際に混入すると,焼上がったパンを一斉におかすことがある。菌糸が好条件下におかれると無数の節を生じ,そこで切れてじゅず状に連絡する分生子となる。その分生子塊は橙色で軽く,空気中に飛散しやすい。またこの菌には被子器という子実体を生じる。被子器は径 1mm以内で黒色,洋なし形の小体であるが,その中に多数の棍棒形の子嚢を生じ,熟すると各子嚢に8個ずつの子嚢胞子を生じるので,遺伝の研究に都合がよい。 G.ビードルと E.テイタムによってX線照射による人工突然変異株がつくられ,その研究により酵素の有無と遺伝子との関係がわかり,遺伝学に画期的な進展をもたらしたことは有名である。

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百科事典マイペディア 「アカパンカビ」の意味・わかりやすい解説

アカパンカビ

子嚢菌類核菌類のカビ。有性世代と無性世代があり,前者は黒色小粒状の被子器をつくり,後者は生育の盛んな菌糸上に芽胞子をつける。カロチンを含み紅色を帯び,熱に耐え,加熱食品,たとえばパン(生焼きのパンに生えて赤くするところからこの名がある),飯,みそなどにつく。ビードルらがアカパンカビの栄養要求性突然変異を用いて,遺伝生化学を確立したのは有名。

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世界大百科事典(旧版)内のアカパンカビの言及

【タマカビ】より

…子囊果の内部は中空になっていて,細長い子囊という袋が縦に密にならび,子囊内には胞子が縦にならんでいる。代表的な種類には,古畳,わら,壁紙などに生えて繊維を侵すケタマカビ(ケートミウム)Chaetomium,焼跡の木やトウモロコシの芯に生え,遺伝学研究の材料ともされるアカパンカビ,動物の糞の上によく発生するソルダリアSordariaなどがある。病害菌としてクリの胴枯病をおこすクリノドウガレ病菌Endothia parasitica (Murrill) P.J.et H.W.Andersonが有名で,クリの枝や幹に寄生して枯らし,アメリカ全土に広がりクリに全滅に近い被害を与えたこともある。…

※「アカパンカビ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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