アカパンカビ(読み)あかぱんかび

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アカパンカビ」の意味・わかりやすい解説

アカパンカビ
あかぱんかび
[学] Neurospora

子嚢(しのう)菌類、タマカビ目に属するカビ。red bread mouldの訳語で、焼け焦げたパンの上によくみられるのでこの名がある。また焼け跡樹木の表面や、地上に捨てられたトウモロコシの食べかすなどの上にも日常的にみられる。当初は無性生殖だけが知られており、モニリア属Moniliaとして取り扱われた。その後、アメリカのシアーShearとダッジDodgeの研究によって、両性株があることが確認され、互いに異なる性が出会った際には、子嚢殻を形成することが実験的にも証明された。子嚢殻の大きさは木綿針の頭程度で、形は洋ナシ形、成熟すると黒色となる。子嚢殻中には子嚢が多数入っており、その中に、黒色でしわのある膜をかぶった子嚢胞子が8個ずつ入っている。成熟すると、子嚢胞子は子嚢殻の頂部のくぼみから放出される。アメリカの学者ビードルBeadleとターツムThatumは変異株を使って遺伝生化学的研究を行い、遺伝学に画期的な進展をもたらした。このため2人は1958年ノーベル医学生理学賞を授けられた。インドネシアではラッカセイにアカパンカビをつけオンチョンOntjonという食物をつくる。日本では飼料製造や成分強化にこのカビが利用される。

[曽根田正己]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アカパンカビ」の意味・わかりやすい解説

アカパンカビ(赤麺麭黴)
アカパンカビ
Neurospora; red bread mold

子嚢菌類タマカビ目ソルダリア科に属するカビ。夏秋の頃,焼いたトウモロコシの芯などを地上に放置するとよく発生する。この胞子は熱に強く,パン製造の際に混入すると,焼上がったパンを一斉におかすことがある。菌糸が好条件下におかれると無数の節を生じ,そこで切れてじゅず状に連絡する分生子となる。その分生子塊は橙色で軽く,空気中に飛散しやすい。またこの菌には被子器という子実体を生じる。被子器は径 1mm以内で黒色,洋なし形の小体であるが,その中に多数の棍棒形の子嚢を生じ,熟すると各子嚢に8個ずつの子嚢胞子を生じるので,遺伝の研究に都合がよい。 G.ビードルと E.テイタムによってX線照射による人工突然変異株がつくられ,その研究により酵素の有無と遺伝子との関係がわかり,遺伝学に画期的な進展をもたらしたことは有名である。

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