改訂新版 世界大百科事典 「梁塵秘抄口伝集」の意味・わかりやすい解説
梁塵秘抄口伝集 (りょうじんひしょうくでんしゅう)
後白河法皇の著。現存のものは巻一断簡と巻十のみ。もと10巻で《梁塵秘抄》20巻のうちの半分を占めるか。1169年(嘉応1)3月中旬ころまでに巻一から巻九までが成り,その後年月を経て1179-80年(治承3-4)以降成立。巻一は神楽,催馬楽(さいばら),風俗(ふぞく)の起りや沿革などを述べ,それ以外の歌として〈今様〉を記しその起源を述べる部分で切れ,以下を欠く。《梁塵秘抄》巻一と同じく見本的なものか。巻十は完本で法皇50歳代の著述。法皇の10余歳から40年に及ぶ長く厳しい今様の修練,当代の歌い手への批評,熊野・賀茂などの社寺における今様の霊験譚,そして法皇が到達した今様と仏教との融合の境地を記すが,特に法皇の若いころの今様への異常なまでの執着と修練や,美濃国青墓の傀儡女(くぐつめ)目井(めい)の養女乙前(おとまえ)(すでに70歳を過ぎた老女)を師に得て奥義を会得したこと,また文中豊富に引用される歌曲名とその伝承の実態などは,芸能史,音楽史の面からも注目される貴重な口伝書といえる。
執筆者:岡見 弘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報