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平安後期の今様とその周辺歌謡の集成。後白河法皇撰。明確な成立年時は未詳。《梁塵秘抄口伝集》と同じころか。もと20巻で,歌詞の集成である《梁塵秘抄》10巻と口伝(くでん)を記した《梁塵秘抄口伝集》10巻があったと思われる。1世紀ほど後に成った《本朝書籍(しよじやく)目録》に〈梁塵秘抄廿巻 後白河院勅撰〉とある。現存のものは,天理図書館蔵の巻子(かんす)本である巻一の断簡21首と,袋綴2冊本の巻二(近世後期書写の孤本)の545首,ほかに《夫木和歌抄》に引く2首など。書名は,古代中国の虞公(ぐこう)と韓娥(かんが)という美声の持主が歌うとその響きで梁(はり)の上の塵(ちり)が舞い上がり,3日もとまらなかったという故事による。
巻一は長歌(短歌体で〈そよ〉という囃子詞(はやしことば)を付けたもの)10首,古柳(こやなぎ)(不整形式で囃子詞の多いもの)1首,今様10首を収めるが,目録の歌数と違うのはこの現存の巻一が見本的な抄出本であることによるか。
巻二は法文(ほうもん)歌220首,四句神歌(しくのかみうた)(神歌)204首,二句神歌121首を収める。法文歌はおおむね8・5音または7・5音の4句形式の仏教讃歌で,大きく仏・法・僧・雑の順に配列され,なかでも法(経典)の部は天台教学の五時教判の基準に従い,華厳経以下のおもな大乗仏典の各経歌をそろえ,特に法華経二十八品歌は開結2経を前後に置く群作百十数首で堂々たる構成である。法文歌にみえる信仰は多彩で,釈迦,阿弥陀,薬師,観音から大日如来まで多くの仏や菩薩が讃仰され,また浄土信仰も色濃く示される。《極楽六時讃》や《天台大師和讃》など長編和讃の一部を切り出したものがあるが,和讃,訓伽陀(くんかだ),教化(きようけ)など法会用の仏教歌謡と密接な関係にあろう。歌詞の中に経典の漢語を多用し荘重な調べを感じさせるが,表現が類型化する傾向もある。一方,四句神歌は神分(じんぶん),仏歌,経歌,僧歌,霊験所歌の順に配列され,神仏習合の歌謡も多くみられ,日吉(ひえ),熊野,金峯山を中心に多くの社寺や山伏の修験道場が全国各地にわたり,物尽し風に列挙され興味を引く。次の雑の部は,定型にとらわれない自由な歌いぶりの世俗歌謡を載せるが,種々の生業を営む庶民の直截な哀歓の心情がさまざまな角度から幅広く活写されており,世に知られる《梁塵秘抄》の代表歌が多い。登場する階層も,新興勢力の武士をはじめ農夫,樵夫,鵜飼,土器造り,物売りなどから博打,山伏など男女聖俗を問わず多岐にわたり,またこれら今様の管理者としての遊女,傀儡女(くぐつめ),巫女などの世界が歌われている。また当代流行の新風俗を歌うもの,猿楽などの民間芸能とのかかわりのあるもの,庶民の固有名詞のあるものなど,興味は尽きない。二句神歌のうち神社歌は和歌の形式で石清水,賀茂,稲荷などの大社・名社を讃えるが,その他の題のないものは恋愛歌を中心に自由な歌いぶりで独自のおもしろさを持つ世俗歌謡である。
以上記した《梁塵秘抄》の歌謡の世界は,和歌の正統に対していわば〈世俗の口ずさみ〉ともいうべきもので,和歌にはない独自の安らぎと解放感があり,近代になって世に知られた《梁塵秘抄》巻二は多くの詩人,歌人に影響を与え,いまだその魅力を失っておらず,また歌謡史,芸能史,宗教史,音楽史など多くの面で研究の課題を残すものである。
執筆者:岡見 弘
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広義の今様(いまよう)歌謡の集成。もと10巻、現存本は巻1/巻2の2巻のみ。書名は「梁塵殆(ほと)んど動く可(べ)し」(『吾妻鏡(あづまかがみ)』文治(ぶんじ)2年4月8日条)のごとく、歌声がきわめて微妙なることの形容に基づく。『本朝書籍(しょじゃく)目録』(鎌倉末期の成立)に「梁塵秘抄。廿巻(にじっかん)。後白河(ごしらかわ)院勅撰(ちょくせん)」とあるのは、本書が本来『梁塵秘抄口伝(くでん)集』10巻と一括されたものであることを示すものと考えられる。巻1~巻9は嘉応(かおう)元年(1169)までに成った。本書の成立もほぼ同時代か。現存本巻1は抄出本(しょうしゅつぼん)と考えられ、長歌(ながうた)10首、古柳(こやなぎ)1首、今様10首の計21首。長歌は短歌体の謡い物、古柳は囃子詞(はやしことば)を伴う不整形式のものが多く、今様は狭義の今様歌謡(七五調または八五調四句)。巻2は法文歌(ほうもんうた)220首、四句神歌(しくのかみうた)204首、二句神歌121首の545首をそれぞれ収める。ほかに『夫木(ふぼく)和歌抄』が2首引用している。法文歌は仏・法・僧・雑の順、四句神歌は神分(じんぶん)・仏歌・経歌・僧歌・霊験所歌・雑歌の順で構成され、二句神歌は短歌体のもので、神社歌61首を含む。半数の謡い物は仏法をたたえたもので、法文歌中の法華経二十八品歌百十数首の群作は本書の白眉(はくび)、四句神歌中の雑86首は、四句の定型から外れた、庶民の哀歓をあからさまに訴える謡い物が多く、二句神歌のなかには生気あふれる民謡風の短章が少なくない。また、本書の旋律面にかかわった白拍子(しらびょうし)・くぐつ・遊女を詠み込んだものもある。
本書は、久しく埋もれていたが、近代になってその転写本が発見された。ともに天理図書館蔵。『梁塵秘抄口伝集』(巻1の断簡と巻10のみ現存)からは、今様の唱法・伝承など、後白河法皇の今様に対する熱烈な傾倒が如実にうかがわれる。
[徳江元正]
『志田延義校注『梁塵秘抄』(『日本古典文学大系73』所収・1965・岩波書店)』▽『新間進一校注・訳『梁塵秘抄』(『日本古典文学全集25』所収・1976・小学館)』
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平安末期,後白河上皇が撰んだ今様(いまよう)の歌詞集。「本朝書籍目録」によれば,もと20巻で歌詞集と口伝集各10巻であったか。明治末期に巻1(断簡),巻2のみ発見された。書名は虞公(ぐこう)と韓娥(かんが)の美声が梁の上の塵を舞いあがらせた故事にもとづく。長歌10首,古柳(こやなぎ)1首,今様10首,法文歌(ほうもんか)220首,四句神歌(しくのかみうた)204首,二句神歌121首,計566首を収める。仏教歌謡を中心に,神祇信仰,院政期の都市生活,庶民の日常をもりこむ社会史の資料としても有効である。巻1の伝本は綾小路家旧蔵(天理図書館蔵)巻子本など,巻2は竹柏園旧蔵(天理図書館蔵)2冊本が唯一の伝本で,正徹(しょうてつ)の孫弟子正韻の奥書をもつ。「新日本古典文学大系」所収。
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…さらに《吉野吉水院楽書(よしのきつすいいんがくしよ)》には〈今様ノ殊ニハヤルコトハ後朱雀院ノ御トキヨリナリ〉とあり,藤原資房の《春記》にも1040年(長久1)〈今様歌之戯有リ〉と記録され,この時期に貴族社会で流行し始めたとみられる。後白河法皇にいたっては,臣下のみならず,各地の遊女,傀儡子(くぐつ)(傀儡)に就いてまで今様を習い集め,その集大成をめざして《梁塵秘抄(りようじんひしよう)》を編むとともに,後世への伝承を意識した《梁塵秘抄口伝集》を著した。 今様の定義は時代や場合によってかなりの異同があり,《梁塵秘抄口伝集》は広義,狭義2種類の使い方をしている。…
…しかし,一般に古代の民謡は,その曲節はむろんであるが,歌詞も残されているものが非常に少ない。
[中世]
中世の前期には,今様とか雑芸(ぞうげい)と呼ばれる歌謡があり,それは《梁塵秘抄(りようじんひしよう)》の中に見られるが,純粋の民謡と思われる田歌,棹歌(さおのうた)(舟歌),満固(まご)(馬子歌)などの歌詞はあげられていない。この期に盛んになった田楽には,民謡が多くとり入れられたことが想像される。…
※「梁塵秘抄」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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